ドリーム・ダンス/エンリコ・ピエラヌンツィ
2022/08/16
ピエラヌンツィ最初の1枚に最適
これからピエラヌンツィを聴こうと思っている方にお勧めしたい、最初の1枚が、この『ドリーム・ダンス』だ。
この1枚で、ピエラヌンツィのピアノの深さ、マーク・ジョンソン(b)とジョーイ・バロン(ds)とのコンビネーションの良さが際立ち、ピエラヌンツィ独特のダークでミステリアスな世界観を把握できることだろう。
このテイストがお口に合えば、おそらくはこの後ピエラヌンツィのどのアルバムに手を出しても楽しめることと思う。
最初にお勧めだからといって、決してソフトな内容ではないし、キャッチーなナンバーが続く内容でもない。
しかし、初めて聴いた人の耳をグッと引き込むだけの強力な磁場がある。
アルバム冒頭曲《エンド・オブ・ダイヴァージョンズ》の初っ端から放たれる鋭角的で重い和音が耳に入った瞬間より、ピエラヌンツィ・トリオならではの世界にグッと引き込まれること請け合い。
続けて、エロティックですらある妖しさをたたえた3拍の《ノー・ナンセンス》、深々と沈み込むような3曲目の《アズ・ネヴァー・ビフォー》、印象的な旋律をベースをフィーチャーした形で彩る4曲目の《キャッスル・オブ・ソリチュード》と、曲の流れが、非常にストーリー感のある構成となっており、気付けばいつの間にかピエラヌンツィ・トリオの音世界の深部に誘われていることだろう。
万が一「ちょっと重たいかな?」と感じれば、ラストの《ファイヴ・プラス・ファイヴ》に飛んで気分転換を図れば良い。
この曲のみ、アルバム中の他のナンバーとは世界観が微妙に異なるノリのよいナンバーで、他曲の耽美的ピアノとは趣が異なる。
速めのテンポ設定ゆえ、マーク・ジョンソンのベースの牽引力の強さと、ジョーイ・バロンの躍動的なドラミングも楽しめる上、かなり激しくドライブするピエラヌンツィのピアノには、思わず首を振りながら聴き入ってしまうことだろう。
ヨーロッパには、エヴァンス派と称されるピアニストが多く、ピエラヌンツィはその筆頭格とされているようだが、彼の強力なオリジナリティの前には、もはやエヴァンスという冠は不要と感じる。
中世の建築を思わせる荘厳な音の構築っぷりと、心の隙間にスルリと浸透してゆくミステリアスな響き、磨きこまれた大理石が放つような重く深い光沢を放つ音色。
ピエラヌンツィは、既にエヴァンスとはまったく違った独自の音世界を独自の路線で切り開き、深化を重ねているからだ。
この境地にさらに今後磨きがかかってゆくと、一体どんな“音オーラ”を発するピアニストになるのだろう? そんなことを考えると空恐ろしい気分にすらなってくる。
記:2010/01/29
album data
DREAM DANCE (Cam Jazz)
- Enrico Pieranunzi
1.End Of Diversions
2.No-Nondence
3.As Never Before
4.Castle Of Solitude
5.Pee De Chose
6.Nippono Ya-oke
7.Pseudoscope
8.Dream Dance
9.Five Plus Five
Enrico Pieranunzi (p)
Marc Johnson (b)
Joey Baron (ds)
2004/12/06 & 07