エマージェンシー/トニー・ウィリアムス・ライフ・タイム

   

ただごとではない空気

怪しい。

殺気立っている。

ヤバそ~な雰囲気。

このアルバム全体から立ち上ってくる濃密な湯気と、ただごとではない空気はいったいなんなんだろう?

ロックな歪み

一つに録音ミスということがあげられる。

アルバム全体の音に薄くディストーションがかかっているのだ。

ディストーションとは、音の歪みのこと。

ロックのギターの音を連想してもらえば分かると思う。“ジャーン”、“グワーン”なあの音ですね。

エレキ・ギターのナチュラルな音に、ディストーションをかけると、あのような歪んだエッジのある音色になるが、この歪みが録音トラブルにより演奏全体にかかってしまったのだ。

しかし、それが逆にこのアルバムの演奏の雰囲気の怪しさを高め、より一層緊迫感に満ちた内容に仕上がっているのだから、“怪我の功名”とはまさにこのことだと思う。

もし、クリーンなトーンで録音されていたら、これほどスリリングな内容になっていたかどうか。

音の分離が悪くなる、レンジが狭くなるといったデメリットはあるにせよ、ディストーショントラブルにより、結果的にドアーズよりもヤバく、ピストルズよりも攻撃力の高いサウンドに仕上がってしまった。

ヤバさに拍車がかかる音質

もっとも、私が所有している記録メディアはCD。

ライナーによると、CD化に際しては、かなり音質が改善されているという。とはいえ、音のザラザラ感や、音圧の強い箇所では、音が割れる様は、健在(?)で、改善されているたとはいえ、決してクリアで上品なトーンとは言いがたく、充分に迫力のあるザラつき感を味わえる。

レコードの『エマージェンシー!』のザラザラ音質はどれほどのものなのだろう?かなり興味がある。

ライフタイムは、トニー・ウイリアムス、ジョン・マクラフリン、ラリー・ヤングにより結成されたオルガントリオだ。

トニーの執拗なまでに細かく刻むシンバルが疾走する。
ラリー・ヤングのぶちキレたオルガン。
鋭利な刃物を思わすマクラフリンのギター。

ただでさえ、テロリストのような演奏集団なのに、それに加えて、あのザラザラした感触の音質だからね。
ヤバさ加減といったらない。
マイルス不在の電気マイルス・サウンドとでも言うべき凶暴さだ。

まさに「緊急事態」

とくに、ベストトラックとでも言うべき《スペクトラム》は、トラブル、パニック、暴動、スクランブル、発射←報復という言葉がよく似合う。

なんだかよく分からないけれども、力と熱のこもり過ぎた“緊急事態”なのだ。
いくつかの箇所で設けられたユニゾンによる“キメ”。
“ズッ・ピャー、ズッズッ・ピャー”が、とてもヤバくて鳥肌ものだ。

ちなみに、このアルバムはサウンドも凄いが、ジャケットも凄い。
このジャケットのビジュアルも、怪しい雰囲気をより一層倍加させることに一役買っていると思う。

表面、裏面、中面ともに、使われている写真のピントが甘く、全体的に赤緑がかった色彩。

ホラー映画などでよく使われる、恐怖を倍加させるエフェクト処理の一つに、映像を緑色に近づけ、画面の粒子を荒くするという手法があるようだが、『エマージェンシー!』のジャケ写は、まさに、それに近いものがある。

まさに、ジャケットとサウンドが一体となった「エマージェンシー=緊急事態」なのだ。

記:2004/05/09

album data

EMERGENCY! (Polydor)
- The Tony Williams Lifetime

1.Emergency
2.Beyond Games
3.Where
4.Vashkar
5.Via The Spectrum Road
6.Spectrum
7.Sangria For Three
8.Something Special

Tony Williams (ds)
John McLaughlin (g)
Larry Young (org)

1969/05/26 & 28

 - ジャズ