フェイシング・ユー/キース・ジャレット
2021/02/14
脈打つピアノ
キース・ジャレットのピアノ・ソロといえば、有名な『ケルン・コンサート』が代表作とされるのだろうが、私の場合は、『フェイシング・ユー』のほうを愛聴している。
もちろん、『ケルン・コンサート』も悪くはないし、嫌いでもない。
「少女漫画チックな大甘なメロディ」とくさす人もいるぐらい、「甘く分かりやすい」メロディに気恥ずかしさを覚えるジャズ・ファンも多いが、私は、どちらかというと『ケルン』のクサいメロディでも抵抗無く受け入れちゃうほうだし、キースの「例の声」と、ちょっと高音の成分のキツい、キンキンとした響きのピアノの音色に慣れれば、それはそれで素晴らしいソロ・パフォーマンスだと思っている。
しかし、単に好みの問題だが、私が『ケルン』よりも『フェイシング・ユー』のほうをかける頻度が高い最大の理由は、躍動感と簡潔さの2点だと思う。
こちらのほうが、旋律全体が生き生きと脈打っている。
そして、演奏時間が後年のソロに比べると短く簡潔だ。
思わせぶりな「焦らし」がなく、直截的でストレートに斬り込んでくる潔さがある。
演奏全体からは、意外なほどの素朴さも感じられるし、ゴスペルっぽいフィーリングも認められる。
若さあふれるプレイが瑞々しい。
そして、『ケルン』が天空を舞う音楽だとすると、『フェイシング・ユー』は、しっかりと大地を踏みしめた音楽だ。
抒情的で、夢見心地な旋律もあるが、全体的には、どっしりとした力強さを感じる。
1曲目の《イン・フロント》の素晴らしい出だしの数音を聴いた瞬間から、キースの「世界」に引きずり込まれ、アルバムの終わりまで、いつも一気に聴き通している。
そんなわけで、私にとってのキースのソロと言えば、まずは『フェイシング・ユー』。
マイルス・グループでの欧州ツアー中に吹き込まれた、初のソロ・ピアノ作。
キースのソロ・ピアノ作品の最初の一枚だ。
記:2002/06/13
album data
FACING YOU (ECM)
- Keith Jarrett
1.In Front
2.Ritooria
3.Lalene
4.My Lady ; My Child
5.Landscape For Future Earth
6.Starbright
7.Vapallia
8.Semblence
Keith Jarrett (p)
1971/11月
Recorded At The Arne Bendiksen