3つの《ファー・イーストマン》
2024/02/04
大村憲司の『春がいっぱい』
中学生の頃、ギタリスト大村憲司のソロアルバム『春がいっぱい』にぞっこんだった。
冒頭を飾る心ワクワク《インテンシヴ・ラヴ・コース》。
坂本龍一作曲でメロディがほぼ《フラッシュバック》(高橋幸宏の3枚目のソロアルバム『What Me Woorry?』に収録)な《セイコ・イズ・オールウェイズ・タイム》。
サポートメンバーとして大村憲司が参加していた際のツアーでYMOも演奏していた《マップス》。
シャドウズのカバー《春がいっぱい(スプリング・イズ・ニアリー・ヒア》。
ラストの《プリンス・オブ・シャバ》などが、最初に虜になったナンバー。
名曲揃い、名音揃い、名アレンジ揃い。
最初は上記の楽曲に夢中になっていたが、だんだんアルバムに慣れ親しんでゆくにつれ、チャキチャキと勢いのあるナンバーよりも、重く気だるい《アンダー・ヘヴィ・ハンズ・アンド・ハンマーズ》や《ファー・イーストマン》のほうに魅了されるようになった。
特に《ファー・イーストマン》の気だるさといったら!
う〜ん、気持ちえぇ!
気だるさに加え、とろーり蕩けるような旋律とギター、矢野顕子のサポートヴォーカルなど、聴きどころ満載、もう最高!
とにかく独特な雰囲気が漂うこの曲は、何度もカセットテープを巻き戻してリピート聴きをしていたものだ。
だつたってアンタ(スネークマンショーの林家三平風に)、キーボードが教授(坂本龍一)、ベースが細野さん、ドラムがユキヒロ(高橋幸宏)ですから、そう、つまりリズムセクションがYMOなのですから、悪かろうはずはまったくなし!
シャキッ!とタイトに決めまくってくれています。
ビシッとしたリズムの上での気だるさね。
ジョージ・ハリスンの原曲
これだけ1つの曲に愛着を持つと、オリジナルのナンバーも聴きたくなってくるというもの。
この《ファー・イーストマン》は、ジョージ・ハリスンとロン・ウッドの共作だ。
作詞はジョージ、作曲はロン・ウッド、らしい。
なんでも、ロンが着ていたTシャツに「far east man」と書いてあったことにインスパイアされて曲が出来ていった、らしい。
だから、「極東の男」⇒「日本人」(あるいは韓国、中国人)ということではない、らしい。
オリジナルナンバーは、'74年に発売されたジョージのソロ『ダークホース』に収録されている。
演奏には、なぜか共作者のロン・ウッドは参加していないが、ジョージ・ハリスンのバージョンは、大村バージョンよりも、さらに気だるくとろ〜り蕩けるような心地よさを覚えた。
いや、逆にいえば、サポートメンバーがテクノポップ全盛期のYMOのメンバーが参加していた『春がいっぱい』のバージョンの方がカチッとし過ぎていただけなのかもしれない。
さらに、同年発表されたロン・ウッドのバージョンを聴くと(こちらにはジョージ・ハリスンも参加)、さらに輪をかけたように、極上のトロ〜リ具合。
ハリスンのスライドギターによる「トロ味度」アップの貢献度は凄い。
あと、なにげにバックのコーラスも「トロ味」の「厚み」度のアップの隠し味になっていることは間違いなし。
うん、脳が溶けるほど気だるいわ。
え〜気分じゃ。
I've Got My Own Album to Do & Now Look
スライドギターとベースラインの違い
同じ年に発表され、それほど曲調には大きな変化がないにもかかわらず、ハリスン・ヴァージョンよりも、ロン・ウッド・ヴァージョンの方が、よりいっそう気怠く感じるのは何故か?
この差は、スライドギターの使われ方の違いが大きいのではないだろうか。
両ナンバーともスライドギターがとろ〜りと使用されているが、ロン・ウッドのバージョンの方が、ヴォーカルにまとわりつくようにギターが奏でられている。
この蛇のようにネチっこく絡みつくようなスライドギターがダウナーな気怠さをより一層強調しているのだろう。
それに加えて、ジョージ・ハリスンのヴァージョンは、ベースラインに動きがあることに対して、ロン・ウッッドのバージョンは、ダラ〜リと全音符でルートを奏でている箇所が多い。
このような気怠い曲の場合は、ベースは頑張りすぎない方が良いようだ。
もちろん、大村憲司のカバーヴァージョンも大好きだが、やっぱり、この《ファー・イーストマン》は、あの曲調、メロディゆえ、トロ〜リ蕩ける演奏になればなるほど、曲からコクと味が出てくるように感じる。
そうなると、やっぱり個人的にはロン・ウッドのヴァージョンがベストかな。
大村憲司、ジョージ・ハリスン、ロン・ウッド。
この3人のミュージシャン(ギタリスト)たちが奏で、歌う《ファー・イースト・マン》は、そのどれもが、ミュージシャンのスタイルや個性が浮き彫りになるので、どれもが大好き。
でも、やっぱり気だるいナンバーゆえ、一番聴く頻度が高いのはロン・ウッドのバージョンなのかもしれない。
あひゃ〜、気怠い。
記:2017/08/10