フライト・トゥ・ジョーダン/デューク・ジョーダン

      2021/02/20

弱っちいジョーダン

『マイルス・デイヴィス自叙伝』を読むと、デューク・ジョーダンについては、あまり良いことが書かれていない。

マイルス・デイヴィス自伝

チャーリー・パーカーのバックでピアノを弾くと、リズムは裏返るし、マックス・ローチに、「おい、リズム裏返るな!」などと怒鳴られるし、要するに、「使えないダメピアニスト」というようなニュアンスで評されている。

また、彼の代表作、『フライト・トゥ・デンマーク』を聴くと、録音が悪いせいもあるが、非常に「か細い」ピアノに聴こえる。

Flight To Denmark

>>フライト・トゥ・デンマーク/デューク・ジョーダン

ジャケットを見ても、大雪の中に一人寂しくたたずむジョーダンの姿が、とても侘しく、なんだかとても寒い気分になってしまう。

私は学生時代に、ジャズ喫茶でアルバイトをしていたが、辛口なレコード係の人が、大のジョーダン嫌いで、「俺ってジョーダンって、ダメなんだよな、(店ではデューク・ジョーダンのレコードがかかっていて)ほらほら、ここの、高い音をてらてらてらと弾くような、ヘンなお星様キラキラで少女趣味っぽいところが、なーんか軟弱でさぁ」と吐き捨てるように呟いていたことを覚えている。

そのようなことが重なったせいもあり、デューク・ジョーダンというピアニスト、私の中では、「弱っちぃピアニスト(笑)」になっている。

しかし、私が彼に抱く「弱っちぃ」という表現の根底には、彼のピアノへの愛情があることを書いておかねばならない。

時として、センチメンタルすぎる「弱い面」も、出てくることもあるが、そこを含めて愛しさを感じてしまうピアニストなのだ。

たしかに、彼のピアノを聴いていると、「押し」が弱い。

ナイーブな人なんだと思う。

しかし、そんな彼にも骨太でパワフルなアルバムもある。

ブルー・ノートから出ている『フライト・トゥ・ジョーダン』だ。

力強いジョーダン

私はこのアルバムが大好きだ。

この渋くて力強いジャケット。

そして、アルバムの内容も、まさにジャケット通り。

ゴツンとした肌ざわりと、骨太なサウンド。

デューク・ジョーダンの「男」な一面が強調された作品だ。

でも、やっぱり時折り垣間見せる「弱っちさ」(笑)。

そんな彼のハードさとナイーブさの両方を兼ね備えた『フライト・トゥ・ジョーダン』が私は大好きだ。

さすが、ブルーノート!とでも言うべき、ハードバップの魅力とエッセンスを凝縮された内容となっている。

ブルーノートでは、これ1枚しか彼のリーダー作なのが残念。

ジェリコの戦い

さて、曲について。

タイトル曲の《フライト・トゥ・ジョーダン》がやっぱり一番良いと思う。

黒人霊歌の《ジェリコの戦い》という曲を彷彿されるメロディに、一回聴いたら二度と忘れることが不可能な「♪ぱや~や、ぱや~や」(笑)。

ドン臭いメロディだなぁ、と感じる人も多いと思う(私も感じた)。

しかし、この「♪ぱや~や」こそが、この曲の最大の魅力と感じる日がやってくることだろう。

「♪ぱや~や」のドン臭さこそが、最高にカッコ良い箇所でもあるのだ。

あまりに印象に残るメロディゆえ、テーマの部分をよくベースで弾いて遊んだものだ。

弾けば弾くほど、うーむ、やはり《ジェリコの戦い》に似てますな。

そして、よりいっそう《ジェリコ》と差別化するポイントが、「♪ぱや~や」の部分であることがわかる。

ジェリコを下敷きにして誕生した《フライト・トゥ・ジョーダン》、テーマのメロディのみならず、ジョーダンのピアノソロも、いつもより力強く、そこには、「弱っちさ」のカケラもない。

2曲目の《スター・ブライト》は、とても落ち着く曲だ。

タイトルは「お星様キラキラ」だが、演奏内容は弱っちぃ少女趣味なお星様キラキラではない。

どっしりと落ち着いた味わいの、男の乾いたセンチメンタルここにあり!といった感じ。

ディジー・リース

ディジー・リースのトランペットも良いよね。

私がこのトランぺッターを好きになったのは、この曲がキッカケ。

4曲目の《ディーコン・ジョー》。

きっと、ジョーダン嫌いな人は、この曲の導入部のようなピアノが我慢ならないのだろう。ちょっとか細くセンチメンタルに高めの音を「ぴらぁ~」と弾くジョーダン。

でも、私はこの曲のメロディ、なかなか面白いと思っている。

素朴な感じがして、湯上がりのまったりしたひとときに一人、ぼーっとなって缶ビールなんかを飲むとハマりそうな曲だ。

危険な関係のブルース

デューク・ジョーダンというピアニストを有名たらしめている理由の一つは、《危険な関係のブルース》の作曲者だということがある。

この哀愁たっぷりのメロディは、多くの人を虜にした。

クサさと怪しさ、そして哀愁のバランスがうまい具合に取れている曲だと思う。

有り難いことに、このアルバムにも、この曲が収録されている。

「Si-Joya」という、違うタイトルでクレジットされているが……。

ジャズ・メッセンジャーズのタフな演奏に比べると、ちょっとこちらの演奏は緩め。しかし、そこが良いのかもしれない。

イギリス出身のトランペッター、ディジー・リース、そして、節回しがいつだってアーシーでソウルフルなスタンリー・タレンタインのテナーもアルバム全篇を通して好演。

日光浴ジャズ?

以下、どうでもよい余談だが、このアルバムをベランダで日光浴をしながら聴いていたジャズ・マニアがいたそうだ。

その人は、学生時代の友人の叔父さんで、彼は、ものすごい数のレコードを保有している「超」が付くほどのジャズ・マニア。

私も、彼の真似をして『フライト・トゥ・ジョーダン』を聴きながら日光浴をしようと思ったが、私にとってこのアルバムのイメージは、完全に夜なので、どうしても太陽の似合うアルバムとは思えず、結局、やめた。

記:2002/07/19
加筆:2015/08/24

album data

FLIGHT TO JORDAN (Blue Note)
- Duke Jordan

1.Flight To Jordan
2.Star Brite
3.Squawkin'
4.Decon Joe
5.Split Quick
6.Si-Joya
7.Diamond Stud (*)
8.I Should Care (*)
  (*)…LP未収録曲

Duke Jordan (p)
Dizzy Reece (tp)
Stanley Tarrentine (ts)
Reginald Workman (b)
Art Taylor (ds)

1960/08/04

関連記事

>>ジェリコの戦い/コールマン・ホーキンス
>>スター・ブライト/ディジー・リース
>>ブルース・イン・トリニティ/ディジー・リース

 - ジャズ