フュエゴ/ドナルド・バード
バードのアドリブは、節約された音数のフレーズ
「フュエゴ」とは、スペイン語で「炎」の意味。
しかし、タイトル曲は、炎を通り越して、「爆発」といった趣きだ。
この爆発っぷりは、レックス・ハンフリーズのドラミングが大きく貢献している。
デューク・ピアソンのピアノの和音と連動した、レックス・ハンフリーのシンバルによる「シャーン!シャーン!シャーン!シャーン!」の4連打が、なんとも、分かりやすく効果的。
アルバム冒頭から、いきなりドカーンと燃え上がり、共演者を煽っている。
しかし、バードのトランペットは、熱く吹きまくるのかと思えば、その正反対。終始、シンプルなフレーズを吹くにとどまっている。あらかじめ、テーマに付随するセカンド・メロディとしてストックしておいたフレーズなのだろうか。
感情の熱量を少ない音数の旋律に混めているかのようだ。
細やかなフレーズを廃した、ロングトーンを中心として構成されたメロディアスなソロで、違った側面から演奏を彩る吹奏がニクい。
あるいは、後続するマクリーンのソロを想定して、あえて節約した音数で己のサウンドキャラクターをより明確に印象付ける作戦だったのかもしれない。
熱きマクリーンのアルト
次いでマクリーンのソロ。
一言、熱い。
いよいよ俺の出番が回ってきたぜ、と登場の機会をいまかと待ち受けていたかのようにソロがスタートする。
バードとマクリーン、両者は違うアプローチで「熱さ」を表現しているが、タイプは違えど、二人は、ともに熱い。
ジャケットのオレンジ色も演奏の熱量を暗示するかの如くだ。
まさに、かつての夕刊フジのキャッチコピーではないが、オレンジ色のニクい奴らによる、会心の演奏が記録された。
味わい深きブルース《ファンキー・ママ》
この演奏以外に個人的に愛聴しているのは、《ファンキー・ママ》だ。
スロー、かつシンプルな、ジャズにおいては典型的な「Ⅱ-Ⅴ」のブルースだが、バードの伸びやかで音数を節約したトランペットが素晴らしい。
この演奏も、《フュエゴ》のように、音をバラまかず、必要最低限の音だけでソロが構成されている。彼の吹く音には一音たりとも無駄がなく、少ない音で、見事に演奏の起承転結を描いている。 この時期から既に、プレイヤーとしてのみならず、アレンジャーとしての目線が培われていたのだろう。
重たく粘るダグ・ワトキンスのベースも良い。
ファンキー全開のラストナンバー
ドナルド・バードのルーツは、ゴスペルが強くあるんだろうなと思わせるのが、ラストの《エイメン(アーメン)》。
快楽的なノリとキャッチーなメロディ。こんなに楽しくて良いの?ってぐらい、ノリの良い演奏だ。デューク・ピアソンのバッキングは、さながらホレス・シルヴァーのよう。
バードの父親は教会の牧師だったというから、この手のゴスペルタッチのナンバーの作曲、演奏はバードにとってはお手の物だったのだろう。
日本では、かつてジャズ喫茶でこのアルバムがかかると、お客から合唱がおこったのだという。
とにもかくにも、ファンキー・ジャズを代表する名盤といえよう。
記:2006/03/02
album data
FUEGO (Blue Note)
- Donald Byrd
1.Fuego
2.Bup A Loup
3.Funky Mama
4.Low Life
5.Lament
6.Amen
Donald Byrd (tp)
Jackie McLean (as)
Duke Pearson (p)
Doug Watkins (b)
Lex Humphries (ds)
1959/10/04
YouTube
動画でもこのアルバムの解説をしています。