トゥー・ソウルズ・イン・ワン/ジョージ・ブレイス

   

カークを期待してはいけない

さあ、ずっこけよう。

ソプラノサックスとストリッチ。

ローランド・カークばりに、これら2本の管楽器をくわえてプレイするジョージ・ブレイスの《メリーさんの羊》。

メリーさんの羊だよ、ヒツジ。

よもやこのような曲もジャズの題材になるとは……。

ジョーズ・ブレイスのプレイは、カークほど、スピード感もキレもない。

音程も悪いし、音のハモりも気持ちいいんだか、気持ち悪いんだか、微妙。

ノリもフレーズもどちらかというと訥弁タイプで、モゴモゴした感じ。

アドリブは、リズミックなアプローチが多く、さすがにリズムにノリ遅れるということはないが、どこか一生懸命な危なっかしさを感じる。

一言、野暮ったい。

一生懸命、標準語を話そうとしている田舎出身の朴訥な青年が、周囲の気を引こうと起死回生の一発芸をかまそうとしている感じ。

しかし、かます曲が《メリーさんの羊》だったりするから、時として周囲を凍りつかせ、どうリアクションをとっていいのか分からなくなることも。

しかし、そういうところも含めて愛らしいではないか、ブレイス君。

一本調子で愚直。都会モンからしてみれば、野暮ったい重たさがあるかもしれないが、私はそんなジョージ・ブレイスのモッサリ感が好きだ。

黒糖のカリントウをほおばったときのような、なんともいえない甘美な幸せ気分に近いものを感じるんだよね、このアルバムを聴くと。

そして、いかにローランド・カークというマルチ・リード奏者はスゴい存在だったのかは、ジョージ・ブレイスを聴くことによって、まずますよく分かるという皮肉(笑)。

いまさらながら、カークって、難しいことをやすやすとこなしていたんだなぁ。

当たり前だけど、ジョージ・ブレイスの“2本吹き”を聴いていると、大変そうだもんなぁ。

2本でも大変なこと、カークは3本をくわえても平然と柔らかいノリでブリブリと吹きまくる。やっぱり怪物だったんだよ、カークって。

しかし、怪物ほどの快活さはないにしても、ブレイスはブレイスで、彼なりの世界を築き上げようとする意気込みが伝わる、彼のファースト・リーダーアルバムが『トゥ・ソウルズ・イン・ワン』なのだ。

バックのグラント・グリーンのギターは、さすがとしかいいようがないほどの名プレイ。

とくに、重たくて少々危なっかしいブレイスの2本吹きの後に登場するグリーンのソロの滑らかで暖かいこと。

ゴツゴツ、ボソボソとしたブレイスの質感とは好対照をなしていおり、ブレイス抜けた後の、ギターソロは、グラント・グリーンのオルガントリオとしても楽しめる。

さあ、ブレイス聴いてずっこけよう。

しかし、その後は、にっこりと微笑んであげよう。

記:2006/12/27

album data

TWO SOULS IN ONE (Blue Note)
- Geoge Braith

1.Mary Ann
2.Home Street
3.Poinciana
4.Mary Had A Little Lamb
5.Braith-A-Way

Geoge Braith (ss,strich)
Grant Green (g)
Billy Gardner (org)
Donald Bailey (ds)

1963/09/04

 - ジャズ