ギヴ/ザ・バッド・プラス
ロック的な色気
轟音。
あるいは爆音ピアノトリオ。
そのような修辞が相応しいバッド・プラス。
ベーシストのリード・アンダーソンがリーダーのアメリカ中西部出身のバンドだ。
そう、バンド。
「ピアノトリオ」という呼び方はどうもシックリとこない。
バンドと呼んだほうが彼らのサウンドには似つかわしい。
たまたまギターがピアノになっているだけ。
そのピアノも、かなりギター的に聴こえてしまうのは、ロックを感じるリズムセクションのおかげでもある。
ブーミーに圧縮されたウッドベースの音色にしろ、バスン!と割れた一打に脳天に杭を打ち込むドラムにせよ、ジャズではありえない歪みの成分が含有されているが、この歪みは、ロックのセクシーさを倍加させる成分のひとつ。
そう、轟音こそがロックのバイタリティの象徴とともに演奏を躍動させるためのエネルギー。
そして、歪みこそがロックならではのセクシャルな要素なのだ。
このロックならではの「色気」を多分に含んだサウンドは、ジャズファンよりもむしろロックファンを「刺激的な音楽」として虜にするかもしれない。
若い頃の私は、歪んだ音と爆音をかますアホバカパンクも演奏していたことがあるので、バッド・プラスのギザギザしたサウンドは体内回帰的な懐かしさも感じられるのだが、ま、普通のジャズの文脈で語り、良さを伝えるのは難しい類のサウンドではある。
……なんてことを考えていたのが、バッド・プラスの2枚目のアルバム『ギヴ』が発売された2004年。
そのときは、まずはズッ・パン! ズッ・パン!と垂直に振り下ろされる打撃音に衝撃と同時に快感を覚え、ずいぶんと、ノイジーかつパワフルなドラムだと感心したものだ。
さらに、妙に歪んだ低音でブンブンと空間を蹴っ飛ばすウッドベースの低音にもハマッた。
リズムだけで、いや、リズムの音色だけで、今までのピアノトリオのステレオ・タイプなイメージを粉砕してくれちゃっていることに快哉を叫んだものだ。
ジャズという一種の慣習やシステムめいたものに“アカンベー”と舌を出しているようにも感じたからだ。
ロゴやテキストのまったくないジャケットも大胆不敵。
彼らの自信のほども垣間見るように感じた。
ま、それぐらい彼らのサウンドや存在が2004年の時点ではヴィヴィットに立っていたということもある。
しかし、それから数年を経た今。
久々に『ギヴ!』を聴き返してみると、思っていたよりも“普通”。
いや、普通という言い方には語弊があるとすれば、思っていたよりも「聴きやすくなっていた」。
ピアノ入りロックの「東京事変」や、スガダイローの爆裂ピアノを聴きまくって、耳がこのようなパワフルピアノと8ビートの組み合わせに慣れてきていたということもあるのかもしれない。
しかし、演奏のクオリティの高さはそのままにしても、音の感触は以前に感じたほどの衝撃が薄れてきていたのは、時代の流れもあるかもしれないし、私の「8ビート的・ノイジーアコースティックサウンド」の免疫が出来上がった結果なのかもしれない。
いずれにせよ、発売当初は「気持いいけど、オーソドックスなジャズファンには勧めにくいよな」と感じていたサウンドが、今では「ユニークなピアノトリオだよ」と勧められる内容に、自分の中では変質していることが興味深い。
バッド・プラスが時代の数年を先行く演奏をしていたのかもしれないし、単に私の耳の慣れの問題なのかもしれない。
いずれにしても、非4ビート系ピアノトリオとしては、かなり面白いアルバムなので、音の冒険者、音という刺激物が好物な方には、「是非お聴きなせぇ~」と背中を押してお勧めしたいアルバム、それが、ザ・バッド・プラスの『ギヴ』なのだ。
記:2009/07/16
album data
GIVE (Sony Jazz)
-The Bad Plus
1.1979 Semi-Finalist
2.Cheney Piqata
3.Street Woman
4.And Here We Test Our Powers Of Observation
5.Frog And Toad
6.Velouria
7.Layin' A Strip For The Higher-Self State Line
8.Do Your Sums-Die Like A Dog-Play For Home
9.Dirty Blonde
10.Neptune (The Planet)
11.Iron Man
Reid Anderson (b)
Ethan Iverson (p)
David King (ds)
2003/10/06-11