ゴーグル/試写レポート
いやはや、いい映画を観たなぁ、というのが心偽らざる、正直な感想。
これは少年・少女の心の成長の物語だ。
もちろん、対外的には「児童虐待がテーマの映画」ということになるんだろう。
私も、人から『ゴーグル』ってどんな映画?と問われたら、同じことを言うと思う。
しかし、児童虐待の是非や、社会への問題提起がこの映画の主張するところではない。
若き桜井剛監督が描きたかったのは、大人の勝手な都合で翻弄される少年少女の心の成長と絆なのだと、私は勝手に解釈したし、そう強く受け止めた。
父親からの虐待で目の周りに出来たアザを、水泳用のゴーグルで隠して生活する主人公の少年、ハル。
ハルは、父親からはロクに食事も与えられず、些細な言いがかりをつけられては殴られ、蹴られる毎日。
服を脱いだときにあらわになる、背中などに出来た無数のアザが痛々しい。
ハルが着用するゴーグルは、彼の心そのものを象徴するかのようだ。
ゴーグルを着用すれば、視界は暗くなり、狭くなる。
同様に、彼はクラスメートとの交流を拒み、1人の世界に閉じこもる。自分ひとりの楽しみを見出し、日ごろの鬱憤を晴らしている。
だからといって、彼は根暗な少年ではない。父親が留守のときは、母親と嬉々としてTVゲームに興ずるし、クラスでイジメにあっている子にも対等に接する優しさも持ち合わせている。
もう1人の主人公は、ハルのクラスメートのカツキ。
ハルよりも少し背の高い女の子だ。
彼女の家の両親は、ほぼ離婚状態。
母親は夕飯を彼女に作り与えると、父親が帰ってくる前に家から去る。
顔をあわせるとロクなことがないから、だそうだ。
だから、家ではロクに親と子のコミュニケーションがとれないばかりか、学校ではクラスメートからのイジメにも遭っている。
彼女の心無いある一言がキッカケで、教科書が隠され、ノートには落書き、ハル以外の生徒からはシカトされるなどのイジメに遭う毎日。
この2人の少年少女が次第に心を通わせ、少しだけタフになる心の成長の物語が、本作『ゴーグル』だ。
先述したが、この2人、家庭では大人の都合で翻弄されるばかりの毎日で、この状況は子供の力では変えられる類のものではない。毎日、じっと息を殺して我慢するしかないのだ。
しかし、それでも子供は強い。
自らの居場所と心通わせる友達を見つけ、少しずつ成長を遂げてゆくのだ。
頑張れ、子供!
負けるな、子供!
淡々として画面からは、熱い監督のエールがすけて聞こえるかのよう。
後半、この2人が6時間歩いて辿りついた明け方の海、ハルにとっては初めて眼前に広がる海で、波と戯れる無邪気な少年少女の姿は涙を誘う。
この映画は、正直、最初の10分間ぐらいまでは、ブツリとシーンが鉈で刻まれるように無愛想に移り変わってゆくので、粗さを感じたが、次第にこのシーンのブツぎりのテンポが心地よくなってくる。
とにかく、話の進み方、速度が心地よい映画でもあった。
公開がはじまったら、今度は、映画館に足を運ぼうと思う。
今度は、5歳の息子を連れて。
大人はもちろんのこと、子供にこそ観て欲しい映画だと思うから。
「強くなれ」
「頑張れ」
「立ち向かってゆけ」
100万の勇壮な言葉を、父親のオレが息子に言う必要はない。
この60分の小品が、静かに、しかし力強く、幼い息子の胸にしっかりと語りかけてくれるだろうから。
そして、この映画を観たわが息子は、この映画後半のハルとカツキの笑顔を肥しに、たくましく育って欲しいと思う。
観た日:2005/01/28
movie data
製作年 : 2004年
製作国 : 日本
監督・脚本・編集:桜井剛
出演 :タモト清嵐、野原瑠美、秋本奈緒美、利重剛 ほか
公開 : 2005年3月より
記:2005/01/29