ゴーイン・ウェスト/グラント・グリーン

      2021/01/27

どんな曲もグリーン色に染まってしまう

根っこがシッカリしている人は、何をやらせてもその人の音になっちゃうんだなぁと痛感させられる1枚。

グラント・グリーンの血肉はゴスペルで出来ており、彼の心臓の鼓動はブルースだ。

しかし、名盤『ラテン・ビット』のギターを聴けば分かるとおり、ラテン・フレヴァーの演奏をやらせても、彼はしっかりと肉汁タップリの演奏をして、満腹にさせてくれる。

このアルバムでは、カントリーやウエスタンにトライするグリーン。

《愛さずにはいられない》、《赤い河の谷間》、それにロリンズの名演で多くの人が知ることになった《ワゴン・ホィール》など、我々日本人にとってもどこか懐かしいメロディを、グリーンは陽気なんだけれども、哀愁のスパイスも隠し味として織り込みながら弾き綴る。

過剰に旋律をイジらず、あくまで原曲を大事にした演奏。それなのに、いつものグリーンを感じられる心地よさ。

難しいフレーズや、細かな速弾きは皆無と言っても良い。

シンプルなフレージングだが、1音1音に存在感、説得力がある。

この人はどんな曲をやっても、自分色に染めてしまう。

もし私がギターを始めたら、まずはこのアルバムの親しみやすい旋律をなぞってギターの練習をするだろう。

編成もシンプルで、ピアノトリオがグリーンのギターを彩るフォーマット。

ピアノがハービー・ハンコックだというのも異色な取り合わせに見えつつも、ベストな組み合わせ。とにもかくにも器用な彼は、グリーンのバックで、もっとも最適と思われるバッキングを繰り出し、最大限にグリーンのフレーズのギターを活かしている。

トミー・フラナガンもそうだが、共演者を殺さず“聴こえない”バッキングで共演者を立てることが出来るピアニストは、かなりの名手なのだ。

このような伴奏の達人をバックに思う存分ギターで“歌う”グリーンはとても気持ちよさそう。

そういえば、《ワゴン・ホィール》は、演奏がノッてきた中盤からリズムは《サイドワインダー》を彷彿とさせるジャズ・ロック調のリズムとなるが、グリーンの後のハンコックのピアノソロは、《サイドワインダー》でピアノを弾くバリー・ハリスにそっくり。

もっとも、《サイドワインダー》という曲自体、リー・モーガンがハンコック作曲の《ウォーター・メロンマン》にライバル心を燃やして作った曲だから、ハンコックのピアノがバリー・ハリス的というよりも、バリー・ハリスの《サイドワインダー》のピアノが、ハンコック的なのかもしれない。

あるいは、このピアノを弾くハンコックは、ロリンズに影響を与え、後年は後輩のロリンズからもモダンなフレージングの影響を受けたコールマン・ホーキンスのようなものかもしれない。

そういえば、ちょっと前にこういうことがあった。

最近の神保町の「BIG BOY」は、昼には管モノを多くかけるようになってきた。

というより、開店当初はヨーロッパのピアノトリオばかりで、頭と肩がカチンコチンになってしまう嫌いがあったのだ。

そこで、昼間に管モノをかければ、店内の空気に活気が出るので心地よいのでは? と私が進言したのだ。

まだ、仕事途中のサラリーマンが昼休みや休憩に来ることも多いので、エネルギッシュな管モノを聴けば、「よっしゃ、残りの仕事もがんばるぞ!」って気分になると思ったからね。

開店当初は、ピアノ中心にチューニングされていたJBLのスピーカーも、管中心に再チューニングが施され、目に見えて、管の迫力が前面に押し出されるようになった。

うーん、いいことだ。

なんて悦に入っていたら、先日、店にやってきたジャズ評論家の村井康司さんに マスターが、 「なんかね、ウルサイ客がいるんですよ。昼にピアノはダメだ。もっと管モノをたくさんかけないと、って言うんですよ。だから、最近は昼は管中心にかけているんですよ~」 なんて言っている。ウルサイ客は余計だっての(笑)。

そんなマスターだが、先日は、気を利かせてくれて、開店直後の誰もいない店内で、エリック・ドルフィーの『アウト・トゥ・ランチ』をかけてくれた。

爆音量で。

誰もいないジャズ喫茶の空間に心地よく響く不思議な多角形サウンド。

マスターが、ひとり、「うーん、シュールだねぇ」と唸る。

「でも、それにしても、お客、今日は来ないねぇ」 で、エリック・ドルフィーをかけ終えた途端、お客が5人、ぞろぞろと入ってきた(笑)。

管がよく鳴るようになったBIG BOYのスピーカーで、 今度は、ギターがどう響くのだろうか、と思い、たまたまカバンの中にあったグラント・グリーンの『ゴーイン・ウェスト』をかけてもらった。

これ、iPodで聴くと、結構ゴキゲンな気分になるし、喫茶店でこれを聴きながらコーヒーを飲むと、とても気分の良いコーヒーブレイクになるからだ。

おりしも、その時の店内は満席。

ホーンばかりがかかっていた店内の格好の息継ぎになると思ったのだ。

ところが。

「BIG BOY」のスピーカーから出てくるグリーンの音はしょぼい、元気がない。引っ込んでいる。

ものすごくギターの音を絞ったミキシングに聞こえる。

不思議だなぁ。

iPodにつないだソニーのヘッドフォンからは、ギターの音ばかりが聞こえるのに。

管を前面に押し出したことによって、ギターが引っ込んでしまったのか。

それとも、このバランスが本来のミキシングなのか。

とにもかくにも、ただでさえ、イモっぽいカントリー、ウエスタンを弾いているグリーンの演奏、もっと堂々と響いてくれないと、本当にしなびたイモになっちまうよ……。

音で、こんなにイメージが覆されたのって久しぶり。

今度は、他のジャズ喫茶でもリクエストして聴いてみよう。

記:2007/01/21

album data

GOIN' WEST (Blue Note)
- Grant Green

1.On Top Of Old Smokey
2.I Can't Stop Loving You
3.Wagon Wheels
4.Red River Valley
5.Tumbling Tumbleweeds

Grant Green (g)
Herbie Hancock (p)
Reggie Workman (b)
Billy Higgins (ds)

1962/11/30

 - ジャズ