ゴーン・アウェイ/エリック・テリュエル

      2018/09/06

Gone AwayGone Away/Eric Teruel Trio

キチンと話すプロ

これを読んでいる方の中に、NHKのアナウンサーの喋りに感動した という人はどれぐらいいるだろうか?

あるいは民放でもいいよ。

とにかく、アナウンサーの話し方に「おお~!」っと思った人、手ぇ挙げて~!

おそらくそんなにはいないだろう。

彼ら彼女らはプロだし、喋りの訓練も受けている。カツゼツもいいし、声だって、ボソボソ声、しわがれ声、ダミ声じゃない。
原稿を読むスピードも規則正しいし、破綻のない喋り方だ。

それなのに、まずは感動しないよね。

それはそれで、仕方のないことなのだ。
最初から、役割上、感動は求められていない職業だ。

視聴者をうならせたりするのがアナウンサーの役割ではない。
とにもかくにも、事実をキチンと伝えることがアナウンサーのお仕事。

ま、単なる原稿棒読みだけじゃ色気はないけれども、それでも、間違った内容を伝えられるよりは、良い。

話す抑揚や、トーン、声色、喋りのテンポは、面白くはないけれども、とにもかくにも、事実をキチンと伝えるための訓練を受けた人たちだから、「キチンと話すテクニック」は最低限持っているし、それで彼らはお金をもらっている。

でも、ジャズは別。

ジャズマンは正確に弾くテクニックで聴衆からお金をもらっているわけではないし、少なくとも私は払っているつもりはない。

キチンと弾くジャズピアニスト

しかし、なんでだろう? ここのところ、アナウンサーのようなピアニスト多いと思いません?

つまり、正確に「弾く」テクニックはきちんとあるんだけれども、面白さや個性、アクの強さのようなものって感じられない人が多いのだよね。

これじゃまるでアナウンサーだよ。
アナウンサーは原稿をキチンと破綻なく読んで、その内容があいてに伝わればいいんだから。

でも、ジャズピアニストは(ピアニストに限らずだが)、それじゃあダメだろう。

破綻なくピアノを弾けるのは分かった。そりゃ当然だよね、キミらは一応訓練受けているわけだから。

じゃあ、その受けた訓練の結果、動くようになった指で、キミらは一体何をしたいの? 何を表現したいの?

もしかして、どうしても「何かを」表現したいという欲求に突き動かされてジャズをやっているのではなく、ピアノが上手に弾けるからジャズを弾いているんじゃない?

と思わず問い糾したくなるようなピアニストが多いです。

なんかツマらない

このエリック・テリュエルもその一人。

うまいんだけども、破綻がないんだけども、音色も綺麗なんだけども、速い曲はそれなりにエキサイティングに弾くし、甘い曲はかなりサービス丸出しの大甘口で弾くし、激しそうに弾いたほうがいい曲は、鍵盤ガーン!と弾くし、
演奏上での突っ込みどころは、まるで無し。

なのにツマらない。
ほんと、ツマらない。

もちろん、綺麗な音楽ですよ。
でも、ジャズじゃないよね。
少なくとも、俺の思うジャズじゃない。

なんか聴いていて、こう、グーッと突き上げてくるものがない。

器用な人が、原画よりも上手なイミテーションを作っちゃいました、って感じの、表面処理はプロっぽいけれども中身は空疎なイミテーション感がぷんぷんと漂う。

巧み。しかし、本気?

もちろん、それなりのテクニックの持ち主だから、聴かせドコロや盛り上げ方は心得ていることは確か。

だから、《リヴァプール・ウォーク》のテーマなんか、「ず、ずるいなぁ~!(笑) この人、分かってやってるよ」というクサさも忘れていない。

でも、どこまで本気で弾いているのだか。

もしかして、イッてないのにイッたフリをして、「騙されてやんの」と心の中では舌をぺロリと出しているのかもしれない(笑)。

でも、この曲好きな人、多いんですよ。

神保町方面の某マスターとか(笑)、吉祥寺方面の某マスターも好きだという噂も聞いた。

ひょっとして、イッてないのにイッたフリされてることに気付かずに、「おお、このピアニストはええわぁ~」状態になってないか(笑)?

それとも、それって、年の功?
分かっていながら、騙されてあげる「通」の楽しみってやつ?(笑)

俺ってまだ若造だから、まだまだ優等生的なソツのない表現にピンとこないだけ?

うーん、分からん。

とりあえず、このアルバムは10年ぐらい封印して、また忘れた頃に聴いてみよう。
「う~ん、ええわぁ」状態になってたりしてね(笑)。

記:2009/03/06

album data

GONE AWAY (COBLA BLEU)

1 Frimousse
2 Mr Cp
3 The Wind Charmer
4 Nocturne II
5 The Whispering Gallery
6 Past Recall
7 Green Fluid
8 Belluggi Sequenza
9 L'Ombre Du Petit Prince
10 Liverpool Walk / Inter Luttes
11 Lea's World
12 Manege D'Automne

Eric Teruel (p)
Atrick Maradan (b)
Cedric Perrot (ds)

 - ジャズ