フロム・ニューヨーク/アキコ・グレース
2021/01/25
真剣!ロン・カーター
真剣にベースを刻むロン・カーターが好きだ。
なんて書くと、おいおい、まるでお前はロン・カーターは真面目にベースを弾いていないとでもいいたいのか、というツッコミがはいりそうです。
では言い換えると、「音に気迫がこもっているロンのベースが好きだ」になります。
少なくとも、マイルス・クインテット時代のロンのベースには気迫がこもっていたし、リーダー作の『パレード』の《ジプシー》のベースなどは、まさに「刻みの凄み」とでも言うべき迫力を感じます。
しかし、私がいだく80年代以降のロン・カーターのイメージは、一部の例外を除くと一貫して、「ゆるい」なんですね。
「ゆるゆる」という形容が不適切であるのならば、「余裕をかましている」「持てる力の70%で巡航飛行」とでも申しましょうか、少なくとも高密度なテンションを感じることは難しいのであります。
しかし、アキコ・グレースのデビュー作『フロム・ニューヨーク』では、珍しく(?)「真剣」なベースが聴けます。
ロン・カーターを真剣にさせたベーシスト
ここでのロン・カーターは、ぐいぐい押してくるピアノに負けじと、気合いのはいったベースを弾いている。
余裕をかます余裕なく(?)、真剣に、かつ対等に一騎打ちをのぞんでいるかの様相。
ピアノがスゴイというのもあるでしょう。
あるいは、真剣にならざるを得ない相手だということを、ベテランの直感が感じ取ったのかもしれません。
いずれにしても、このアルバムのロンのベースからは「ゆる」な要素は感じ取れません。
アキコ・グレースと共演したときのロンの気持ち、少しだけわかるような気がします。
アキコ・グレースさんのピアノ、強力なんですよ。
強力ピアノ!
以前、ラジオ番組の収録時に、アキコさんと軽くブルースを数コーラスほどお手合わせ願ったことがあるのですが(アキコさんエレピ、私エレキベースでしたが)、とにかく「ぐいぐい」。
私は、負けじ、遅れじとついていくのがやっとでした。
エレピでの軽いセッションでも、すんごい音の馬力。
もちろん、素人の私と、プロで、しかも大ベテランのロン・カーターを比較するのもオコガマシ過ぎるですが、あの超強力なドラマートニー・ウィリアムスとリズムセクションを組んでいたロンでさえも、真剣にさせてしまうピアノなのだから、やっぱり凄いです。
衝撃のデビュー作
2曲目の《デランシー・ストリート・ブルース》でドカン!とはじける、力強いスピード感に興奮。
この『フロム・ニューヨーク』は、発売されたときは、かなり話題になったし、その美しきルックスゆえ「おお~!」とジャケ買いした人を、別な意味で「おお~!」といわしめた衝撃のデビュー作でもあります。
2002年に発売されたアルバムですが、10年以上を経た今、「期待の大型新人」とか「なりものいり」などといった枕詞を取り払って改めて聴いてみると、かえって新鮮に感じるのです。
ほとばしる才気。
ピアノの音パワー。
ゆるんだ気持ちを引き締めてくれるアルバムなのです。
記:2013/01/05
album data
FROM NEW YORK (Savoy)
- Akiko Grace
1.Prelude- Never Let Me Go ( Short Version)
2.Delancey Streets Blues
3.I've Seen It All
4.You Don't Know What Love Is
5.You Must Believe In Spring
6.Last Smile Of You
7.Voice Of The Spear
8.Inner Conflict
9.Texture
10.My Favorite Things
11.Never Let Me Go (Full Version)
Akiko Grace(p)
Ron Carter(b)
Bill Stewart(ds)
2001/05/01 & 02