プレイズ・ジャズ・バラード/グラント・スチュワート

   

音色で魅せる

日本でも人気の高いテナー奏者、グラント・スチュワートのバラード集。

ワンホーンでじっくりとメロディをあまりいじくらずに、ストレートに歌いあげることが売りのようだ。

ガシッとしたグランド・スチュアートの吹奏と、ビシッと統制のとれたリズムセクションのアンサンブルは手堅く、聴きやすい内容ではあるが、スリルや刺激という面では、いささか物足りなさを感じてしまうのは私だけか。

つまり、原曲の歌のメロディを大事にしているという点では、難解なメロディを毛嫌いする歌モノ好きなジャズファンにとっては嬉しい内容だとは思う。

しかし、原曲を大事にするあまり、逆に原曲の持つ味わいに縛られ、それを踏み台にした創造性、発展性はあまり感じられないことも正直なところ。

求めているものが違うの。そう言われれば、それまでの話だ。

このアルバムのライナー執筆者、寺島靖国氏のように、いわゆる「美メロ」を好み、原曲の旋律をなんの衒いもなく、そのままに吹く姿勢を「潔し」とするジャズファンもいるのだから。

もちろん、素晴らしい曲は、原曲の持つ味わいを尊重すべきかもしれないし、下手にこねくり回すよりはストレートに吹いてもらったほうが良いこともある。

しかし、このアプローチには諸刃の剣的なところもあって、分かりやすさという面では多くのリスナーを魅了する「掴み」にはなるのだろうが、じゃあそれってムーディなインスツルメンタル音楽とどこが違うの?という紙一重な世界でもあるのだ。

私がジャズに対して持っている勝手な思い込みに過ぎないのかもしれないが、やっぱりジャズであるからには、分かりやすさの中にも、どこか微量でも良い、演奏者なりの創造性や主張を盛り込んで欲しいと思うのだ。

フロントが管楽器、
アコースティックピアノ、
ウッドベース、
ブラシも使用するドラム。

見てくれは、文句なしにジャズの伝統的なフォーマットでも、肝心なのは演奏内容。
編成はアコースティックでも、クリエイティヴィティが希薄な演奏は、それはあくまで「インスツルメンタル」であって、ジャズではない。

ま、これも私の持つ勝手なジャズ観なのかもしれないが……。

もっとも《あなたは恋を知らない》、《ソフィスティケイテッド・レディ》、《煙が目にしみる》などのスタンダードチューンのメロディを難しいこと考えずにストレートに味わってみたいという人にはオススメな内容ではある。

自宅で照明を落とし、気軽にバーの雰囲気を演出してみたいという方にもオススメ。

テナーサックスのふくよかな低音を再生するのが楽しみなオーディオマニアにもオススメ。

しかし、ジャズから刺激と元気とエネルギーを分けてもらい、今日も一日頑張るぞな人には非オススメ(笑)。

音色的なコクはあるが、私にとは、歯ごたえのあまり感じられない内容だ。あと10年、もう少し年をとってから改めて聴き返してみよう。

記:2009/10/28

album data

PLAYS JAZZ BALLADS (Birds)
- Grant Stewart

1.I'm A Fool To Want You
2.Luiza
3.You Don't Know What Love Is
4.Flamingo
5.I've Grown Accustomed To Your Face
6.Everything Happens To Me
7.Sophisticated Lady
8.Smoke Gets In Your Eyes

Grant Stewart (ts)
David Hazeltine (p)
Peter Bernstein (g)
Peter Washington (b)
Phil Stewart (ds)

2009/05/05

 - ジャズ