ハン・ベニンクのドラミング~ドルフィーの『ラスト・デイト』と『DADA 打、打』

   

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かなり前のことだが、今はなき『スウィング・ジャーナル』で、ドラマーのエド・ブラックウェルが来日した際の短いインタビューを読んだことがある。

たしか、ブラックウェルにエリック・ドルフィーの『ラスト・デイト』を聴かせて感想を求める趣旨の記事だったと思うが、その時の彼のコメントが興味深かった。

彼は、このドラミングは非常に「理数的」であり、当時のアメリカのジャズよりも数年進んだドラミングだと、ハン・ベニンクをはじめ、当時のヨーロッパのドラマーのことを褒め称えていたのだ。

ブラックウェルもハン・ベニンクもドルフィーと共演したドラマーだ。

しかも、ブラックウェルは『アット・ザ・ファイヴ・スポット』、ベニンクは『ラスト・デイト』と、いずれもエリック・ドルフィーの代表作であると同時に、ジャズの歴史的名盤の100枚には必ずランクインするほどのアルバムに参加しているドラマーでもある。

そのような意味においては、両者は互いに気になる存在でもあったに違いない。

私は、『ファイヴ・スポット』におけるブラックウェルのドラミングも、かなり独特で、当時のドルフィーとブッカー・リトルの双頭バンドの演奏に素晴らしいアクセントを与えていたと思う。

時には、シンバルレガートをストップさせ、印象的なフィルを入れることで演奏の流れに聴き手を「ハッ」とさせる驚きとメリハリをつけ、単調な4ビートに陥らない工夫が随所に施されたドラミングなのだ。

しかし、ブラックウェルはドルフィーのほうからは、あまり革新的過ぎるドラミングではなく、オーソドックスな4ビートを堅持して欲しいという要求があったようだが、ドルフィーの要求は守りつつも、ところどころで4ビートの定型リズムからの「はみ出し」行為がおこなわれており、この枠を守ろうとする意識を保ちつつ、ドルフィーをはじめとする精鋭ジャズマンたちのプレイに触発されてか、ついつい定型ビートの枠をはみ出してしまうところが、私にはスリリングに感じる。

その一方で、ハン・ベニンクのドラミングだが、この時期のドルフィーの吹奏スタイルにより適合したスタイルのドラミングだと私は考えている。

『ラスト・デイト』が録音された時期のドルフィーのアドリブのアプローチは、チャーリー・パーカー的なビ・バップのイディオムから脱し、横方向にウネウネとしたラインを描く水平アプローチから、決定打となる一音に情報量とインパクトを圧縮する縦方向へとシフトしていた時期だと考える。

>>水平ドルフィー⇒垂直ドルフィー

『ラスト・デイト』の最初のナンバー《エピストロフィー》で聴ける「馬のいななき」と評されたバスクラリネットにおける縦方向のインパクト。

これをまるで補完するかのようなハン・ベニンクの強いスネアの「打」は、いきなり冒頭のドラムの最初の一撃からはじまる。

この「一打」が象徴するかのように、ベニンクの4ビートは、力強く揺れる4ビートなのだ。

まるで地震のように揺れるハン・ベニンクの「強い4ビート」を味わえるアルバムが『ラスト・デイト』なのだが、この「強い揺れ」をエド・ブラックウェルは「理数的」と捉えていたことが、個人的には非常に興味深かった。

また、今ではヨーロッパのジャズの大御所の一人となったドラマーのハン・ベニンクだが、彼が若かりし日のドルフィーとの共演の頃からも、すでにジャズの本場・アメリカで活躍する先鋭的なドラマーを驚嘆させるサムシングを持っていたことも興味深い。

彼のドラミングからは、いつだって強い「打」を連想してしまうのだが、まさに、その「打」を象徴するかのようなアルバムが先日発売された。

その名も『DADA 打、打』。

山口県小郡南小学校のホールで行われた豊住芳三郎とのデュオだが、タイトルの「だだだ」が、まさに彼を特徴づけるイメージ「打打打」と直結し、秀逸すぎるネーミングだと思う。

残念なことに、LPのみでの復刻だが、レコードプレイヤーをお持ちの「耳の冒険家」には、一聴をオススメしたい。

記:2015/07/25

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