ハービー・ハンコック私的愛聴盤3枚

      2022/05/30

私が好きな「極私的愛聴盤」3枚を公開しようと思います。

ハンコックの演奏の特徴のひとつとして、個性的な和音の響きがあります。
彼ならではの響きは、他のどのジャズマンにはないオリジナリティがあります。

同じハービーはハービーでも、もう一人の独特な和音の響きを放つハービー・ニコルスがいます。

彼の和声は、どんどん内側に閉じてゆくような、じっとりとした重い響きですが、ハンコックの場合は間逆。空間に拡散してゆくように開放的です。

それでいて、かなり理知的。

どんなにエキサイティングなプレイをしているときも、直感や感情のおもむくままに鍵盤の組み合わせをセレクトしている感じはしない。

もちろんハンコック流の指グセはあるのだろうけれども、和音の一音一音がとても機能的かつ含意的。さらに共演者のイマジネーションを広げるためのヒントをさりげなく提示する暗示的な要素もある。

この様々なニュアンスを響きに塗り込めた同じようなタイプのピアニストに、セロニアス・モンクとビル・エヴァンスがいます。

もちろん、ハンコックも、モンクも、エヴァンスも、強烈なオリジナリティがあるから、3人とも和音の響きは似ていません。

ハンコックの和音は、モンクほど強烈なアクはないし、エヴァンスほどエレガントでもない。
ちょうど両者の中間をいくというか、両者の良いとこ取りをして、さらにカッコよく洗練させているのがハンコック流和音なんじゃないかと。

「7thをボトムに置く発想はエヴァンスから学んだ」とハンコック自身が語っているように、楽理的な発想はかなりエヴァンスを参考にしていることは明らか。
クラシックにも明るかったエヴァンス。一方、ハンコックは、バルトークも研究していた。つまり、クラシックの素養もあるピアニストのハンコックは、同じくクラシックの素養のあるピアニスト、エヴァンスのスタイルはかなり気になっていたのだろうし、参考にもしたんでしょうね。

いっぽう、時間軸に沿って横に流れる演奏に対し、硬質な音のカタマリを垂直投下するモンクの和音の「異化効果」もハンコックはかなり影響を受けていると思います。

ときに音楽の流れを強引にせき止めるかのような固い和音の塊。
この塊が演奏上に及ぼす効果をハンコックはかなり自覚的に追求しているように感じます。

もちろん、モンクほど強引ではなく、むしろサウンドテキスチャー全体を俯瞰的にとらえ、モンク的な気まぐれ度を極力排し、硬質な響きを戦略的に横軸にレイアウトすることに熱中している印象を受けるのが、ハービー・ハンコックの和音構築と和音レイアウト術と私は感じます。

以上のごとくのハンコックの資質を楽しめるのが、以下の2枚なんです。

 

たぶん、ハンコックのアルバムの中では『インヴェンションズ・アンド・ディメンションズ』を一番聴いていると思う。
ブルーノートのハンコックの中では、いちばんの異色作に位置づけられるアルバムなんだろうけど、同じブルーノートでヒットを飛ばした《ウォーター・メロンマン》や《カンタロープ・アイランド》の人とは思えぬほど、ストイックで、上記2曲とは違って、身体にこなくて脳にくる音楽ですね。

上記が「冷静ハンコック」だとすると、もう1枚は「熱狂ハンコック」。
この『シクスタス』というアルバムは、北欧のドラマー、ペーター・ヨハネソンのリーダー作です。
サイドマンであることをいいことに、ハンコック、責任感が軽減したのかどうかは分かりませぬが、かなり好き放題に暴れています(笑)。

1曲目の《ブレイク》などは、かなりエキサイティング。
しかし、リーダーでない気楽さもあるのか、ソロの構築っぷりは、かなり雑ですね。

クラスター的打鍵を、あともう2~3音繰り出すのかと思ったら、途中で音を濁してやめてしまい、次のソロフレーズへ移行してしまったりと、なんというか短い時間の中にありったけの「どうだ、オレのピアノスゲーだろ!」を詰め込もうとする意欲が強く、ピアノのストーリーテリングとしては、かなり端折りが多い。

しかし、それだけオムニバス的なハンコック流ピアノのショーケースとして楽しめることも確か。さらに、さきほどは雑と書いたけれども、この雑さはいい意味でのエキサイティングさでもあり、リーダー作にはありがちな澄まし顔でプレイをされたよそいき&フォーマルなピアノとは違う、ハンコックの本音を垣間見れる瞬間でもあります。
だから、好きなんですね。

あと、もう1枚。

これは、上記2枚とはまったく違うノーテンキなアルバムなんですが、ソウル、リズム&ブルース好きでもある私を、いつだってゴキゲンな気分にさせてくれるアルバムです。

それにしても、写真もデザインも安っぽくてセンスのかけらもないジャケットだなぁ(苦笑)

パンチパーマにデッカイグラサン、口ひげをたくわえ、開襟Yシャツからは金属アクセサリーがキラリと光る、大阪ミナミの借金取りのヤーさんですか、ハンコックさん?(笑)
痺れまくりです(笑)。

でも、中身の音楽はいいですよ。

ハンコックのヴォーカルは、ヴォコーダーを通してはいるけれども、元の声がわかる程度の軽い変調をかけているだけ。よって、元の声がわかる。
元の声をイメージしながら聴くと、ハンコックって、けっこう歌上手なんじゃないの? って思う(笑)。
もちろん、余技のレベルではあるけれども、余技にしては、彼のヴォーカル、いい味出していると思います。歌心を感じる。

ポール・ジャクソンの強力なベースも聴きもの。
これはなかなかいいです。
ジャズファンよりも、ソウルミュージック好きなら納得の1枚なのではないでしょうか。

ちなみに、私、真心ブラザーズの《エンドレス・サマー・ヌード》という曲が大好きなんですが、この時期のハンコックがカバーしたら、もっともっととてつもなく凄い演奏になるんじゃないかと、勝手に頭の中で音を組み立てて遊んでます。

この躍動的なんだけど、甘さと切なさの成分も含有したこの曲を、ポール・ジャクソン以下の強力なリズム隊がリメイクしたら、もっともっと強力に泣けるソウルに仕上がるのではないか、と。

ハンコックは歌わないでいいので(笑)、そのかわりサビのコーラスをヴォコーダーでやって欲しい。あと、途中のエレピのソロもね。
そんなことを妄想しながら『サンライト』を聴くと、楽しさがさらに倍増するのであります。

以上、私が日ごろ愛聴しているハンコック3枚の紹介でしたっ!

 - ジャズ