ハンド・オン・ザ・トーチ/US3
原曲知らなくても楽しめるはず
US3は、ロンドンでクラブDJをしていたジェフ・ウィルキンソンと、サウンド・エンジニアのメル・シンプソンとで、90年代初頭に結成されたユニットだ。
ジャズとヒップ・ホップを大胆に融合させた彼らは、「ブルーノートの音源、使いたい放題!」という恵まれた条件で契約が成立し、ハービー・ハンコックの《カンタロープ・アイランド》をヒップホップ風に蘇らせ、それが大ヒット。
「US3といえばカンタロープ」と認識されるほど、彼らを代表するべきナンバーとなった。
これが収録された、ファーストアルバムの『ハンド・オン・トーチ』は、93年にリリースされ、200万枚のセールスを達成。この数字は、ブルーノート・レコード創設以来の大記録なのだそうだ。
リズムのループから、引用されるピアノのバッキング、ベースのリフ、トランペットやサックスのフレーズ、はたまた、バードランドの名物司会者、ピー・ウィー・マーケットのナレーションまで、聴きなれた数々の音のカケラが巧みに編集されたサウンドは、一言、オモシロイ。
ブルーノートのアルバムの鑑賞枚数に比例して面白さは増すに違いないが、ブルーノートの音源にまったく接したことの無い人にとっても聴きやすい内容でもある。
巧みなアイディアと、4ビートジャズとはまったく別の世界を作り上げてしまっている編集の鮮やかさには舌を巻く。
「あの音がこんなところで使われているとは!」
聴きなれた“あの音”も、別な角度からスポットを浴びることによって新鮮さが増す。バラバラに解体された音源が、新たな生命を得て躍動する驚きこそが、このアルバムを聴く最大の楽しみだ。
個人的には、ホレス・シルヴァーの《ソング・フォー・マイ・ファーザー》のイントロのリズムパターンをループさせた《イレヴン・ロング・イヤーズ》と、《ジーニー》のデューク・ピアソンのピアノのリフをループさせ、ホレス・シルヴァーの《フィルシー・マクナスティ》のホーンをかぶせたラップ、《メイク・トラックス》が好きだ。
私もそうだが、きっと多くのリスナーも、自分の好きな曲のパーツの含有率が高い曲ほど、お気に入り度が高くなるのでは?
よって、私の場合、代表曲《カンタループ》は、原曲があまり好きじゃないので、それほど感じるものは無いんだよね。
キャッチーではあるけど、他の曲の編集っぷりからいうと、かなりユルい内容と感じる。
もっとも、ユルいからウケたのかもしれない。
皿の上に具を盛り込みすぎない編集。
だからこそ、原点を知らない層にも届きやすかったのだろう。
記:2006/04/24
album data
HAND ON THE TOACH (Blue Note)
- US3
1.Cantaloop (Flip Fantasia)
2.I Got It Goin' On
3.Different Rhythms Different People
4.It's Like That
5.Just Another Brother
6.Cruisin'
7.I Go To Work
8.Tukka Yoot's Riddim
9.Knowledge Of Self
10.Lazy Day
11.Eleven Long Years
12.Make Tracks
13.The Darkside
Geoff Wilkinson (DJ)
Rahsaan (rap)
Kobie Powell (rap)
Tukka Yoot (rap)
Marie Harper (vo)
Gerard Presencer (tp)
Dennis Rollins (tb)
Steve Williamson (ss)
Ed Jones (ts)
Mike Smith (ts)
Tony Ramy (g)
Matthew Cooper (p)
Mel Simpson (keyboards, programming)
1993年