ハイ・ファイ・エリントン・アップタウン/デューク・エリントン
高音質かつモダンな響き
『ポピュラー・エリントン』とともに、エリントン入門者には真っ先にお薦めしたいアルバムが『ハイ・ファイ・エリントン・アップ・タウン』だ。
私の場合、ベツレヘムの『プレゼンツ』からエリントンに入門してしまったので、エリントン・サウンドの良さが分かるのには随分と時間を要してしまったものだが、掴みの良い『ポピュラー』や、この『ハイファイ』あたりのアルバムから聴いていれば、もっと早くエリントンの音楽に親しめたのかもしれない。
このアルバムは、50年代のエリントン・サウンドを代表するアルバムといっても過言ではない。
1951年のエリントン楽団は、バンドの顔とでもいうべき主要メンバーのジョニー・ホッジや、ローレンス・ブラウン、ソニー・グリアーが退団してしまった。
この大きな穴を埋めるべく、エリントンはトロンボーンのファン・ティゾーや、ドラマーのルイ・ベルソンら新規メンバーを加入させて、バンドサウンドを立て直したのだ。
新しいエリントン楽団のサウンドの趣きは、一口で言えば、重厚さが多少軽くなりすっきりとスリムになった。と同時にモダンな響きも獲得している。
特にルイ・ベルソンの躍動的なドラミングが、ずいぶんとサウンドの方向性の違いを決定づけているように感じる。
そのショーケースとでもいうべき演奏が冒頭の《スキン・ディープ》だ。
より一層モダンな佇まいを獲得した新生エリントン楽団の幕開けを高らかに宣言しているかのような迫力のベンソン・ドラミングが、まずは聴き手を引き込むことだろう。
このアルバムのもうひとつの目玉は、なんといっても、エリントン楽団の18番であり代表曲でもある《A列車で行こう》だろう。
ヴォーカルのベティ・ロッシュ(ローシェ)による歌唱が、このアルバムの楽しさを倍加させており、数ある《A列車で行こう》の演奏の中でもベストに入る極上の内容に仕上がっている。
また、《ムーチ》の演奏も新生エリントン楽団のサウンドを高らかに宣言しているかのようで、なかなかの充実した内容だ。
タイトルの「ハイ・ファイ」だが、これは「ハイファイ録音」の技術が確立された時期に録音されたという理由から。
ただでさえ奥行きがあり、楽器同士の複雑な絡み合いを表現するエリントンサウンドが、レコードを通しても、立体感のあるサウンドが楽しめるようになりましたよ、という製作者側の意図がタイトルからも汲み取れる。
また、40年代末あたりからLP(ロング・プレイング・レコード)が普及しはじめ、せいぜい3分程度しか演奏を収録できないEP(シングル・レコード)よりも長時間録音が可能となったことも、このアルバム制作の背景にはある。
お尻の時間を気にせずに、たっぷりと自分の音楽を盛り込める、しかも高音質で。
エリントンの創作意欲にも火がついたに違いない。
だからこそ、この出来、そのサウンド、このクオリティなのだろう。
記:2011/04/12
album data
HI FI ELLINGTON UP TOWN (CBS)
- Duke Ellington
1.Skin Deep
2.Mooche
3.Take The 'A' Train
4.Tone Parallel To Harlem
5.Perdido
6.Before My Time (Bonus track)
7.Later (Bonus track)
8.I Like The Sunrise (Bonus track)
9.Dance (Part 1/Bonus track)
10.Dance (Part 2/Bonus track)
11.Dance (Part 3/Bonus track)
12.Dance (Part 4/Bonus track)
13.Dance (Part 5/Bonus track)
Duke Ellington (p,cond,arr)
Cat Anderson , Harold Baker , Willie Cook , Ray Nance , Clark Terry , Wlliam Anderson , Francis Williams (tp)
Quentin Jackson , Juan Tizol , Britt Woodman (tb)
Hilton Jefferson , Russell Procope,Willie Smith , Paul Gonsalves , Jimmy Hamilton , Harry Carney (sax)
Billy Strayhorn (p)
Wendell Marshall (b)
Louis Bellson (dr)
Betty Roche (vo)
1951/12/11~1952/07/01