抱きしめたい/グラント・グリーン
2021/01/28
心地よい倦怠感
タイトルからも分かるとおり、表題曲はビートルズの有名曲《抱きしめたい》。
このナンバーをグラント・グリーンは、オルガンのラリー・ヤング、テナーサックスのハンク・モブレイらとともに、まったりとした触感に料理しなおしている。
単純、かつ印象的なリフを絡めながらも、ゆっくりとリラックスしたペースで演奏が進行してゆくため、最初はビートルズの原曲とのギャップに違和感を感じていたものだが、慣れてくると、この“まったりさ”も格別な味わいがある。
太くて、コッテリと円やかなグリーンのギターが、気だるいフィーリングで奏でられるラリー・ヤングのオルガンにピッタリとマッチしているのだ。
さらに、もう一人のフロント、ハンク・モブレイのテナーの語り口も円やか。
絶妙の音の配合具合を楽しめる。
気だるさと、リラクゼーション。
このフィーリングは、まるで、真夏にプールで思いきり泳いだ後に感じる心地良い倦怠感のような、まったり&メロウなサウンドだ。
エルヴィンのドラム
ビートルズ・ナンバー以外はすべてスタンダードという選曲の本盤。
《星影のステラ》も、負けず劣らす、メロウだ。
というよりも、《スピーク・ロウ》以外は、全部スローテンポ、かつモーダルな雰囲気の演奏だが。
《スピーク・ロウ》では、エルヴィン・ジョーンズのグルーヴしまくるドラミングが楽しめる。
周囲のペースからは浮いているかのように熱烈にウネり、脈打つエルヴィンのドラミング、以前、私の番組(快楽ジャズ通信)にご出演いただいたスガダイローさん曰く、「あ、これ周りの演奏聴いていませんね(笑)」。
楽器を演奏しないジャズファンの間には、ジャズのアンサンブルというと「互いが出す音を聴き、当意即妙なレスポンスが良い演奏を形作る」という“即興演奏神話”があるようだが、必ずしもジャズマンは、すべての音に耳を凝らして演奏しているわけではないのだ。
特に、エルヴィンが叩きだす複雑なグルーヴ感を持つリズムは、アップテンポの時など、いちいち数えていたら、自分の演奏が遅れてしまう。
まったく聴かないわけではないが、相手の音を聴き過ぎず、反応し過ぎずに自分のペースで演奏を進行させてゆくことが、結果的に演奏の一体感を生み出すこともあるのだ。
特に、このアルバムの《スピーク・ロウ》などは、各演奏者の「マイペース」が結果的に調和した内容に仕上がっている好例といえるだろう。
記:2003/05/29
album data
I WANT TO HOLD YOUR HAND (Blue Note)
- Grant Green
1.I Want To Hold Your Hand
2.Speak Low
3.Stella By Starlight
4.Corcovado(Quiet Nights)
5.This Could Be The Start Of Something
6.At Long Last Love
Grant Green(g)
Hank Mobley(ts)
Larry Young (org)
Elvin Jones (ds)
1965/03/31