タミヤ1/35 ハンティングタイガー(ヤークト・タイガー)制作記
2021/12/26
長い余談:ウォーゲームの話
思い入れがある故に、なかなか手を出せないキットというものもあるものです。
それがヤークト・タイガー(ヤクト・タイガー)。
タミヤから出ている旧キット名は「ハンティングタイガー」ですけど。
これ、中学生の頃から目をつけていたんですよ。
いつも学校の帰りに立ち寄る小さな模型店で、箱を空けてはパーツの数少ないなぁ、でもゴッツくて強そうだなぁと思っていたものです。
当時のタミヤのキットの価格は1000円くらいだったから買っておけばよかったな。今はものすごく高くなっててビックリですが。
で、高校入学後、そのままプラモ好きを引きずっていた私は、相変わらず『ホビー・ジャパン』の愛読者だったのですが、『ホビー・ジャパン』誌から派生したウォーゲーム(シミュレーションゲーム)の雑誌『タクティクス』(だったと思う)が出版されたので、そちらの方にも興味を持つようになりました。
難しそうだったけど、まあプラモやミリタリーに関係ありそうだなと思って買って読んでいましたが、やっぱり難しかった……。
当時、『ホビー・ジャパン』誌上でも「レニングラード攻略戦」や「マーケットガーデン作戦」、「バルジ大作戦」などシミュレーションゲームの広告が掲載されていたので、私も自動的に興味を持つようになったわけなんですよ。
当時の『ホビー・ジャパン』を愛読していた中高生(「マシーネンクリーガー」ではなく「SF3D」と呼んだほうがシックリとくる世代)の何割かは、きっとシミュレーションゲーム(ウォーゲーム)にも手を出していたと思います。
まだPCやコンピューターのゲームが一般的ではなく、もちろん我が家にはMSXやゲームウォッチくらいはありましたが、高校の科学部に遊びにいってもPC8801や9801が当時の最新だった時代です。なので、まだまだコンピューターで多くの部隊を組織、管理、戦いにおける諸条件から計算し勝敗の判定を下すというような、後に登場する「大戦略」のような内容のゲームが登場するのはもう少し先のことでした。
もっとも、その少し後にファミコンやPC6801などに対応した『信長の野望』が登場し、夢中になってプレイした記憶があります。
選択できる大名は織田信長か武田信玄の二択で、日本全国ではなく畿内と中部関東甲信越地方までの国々までしか統一できない内容でしたが、それでもなかなかよくできたゲームだったと思います(慣れれば数時間で統一できるところも魅力でしたね)。
このようにパソコンやゲーム機器でプレイできるゲームも少しずつ出始めていた時代ではあったのですが、当時の主流はどちらかというとボードゲーム。
それも、できるだけ当時の状況を再現しようと細かな設定とルールが設けられたウォーゲーム(シミュレーションゲーム)が一部のマニアの心を捉えていたのです。
地形の上にヘックスと呼ばれる六角形のマス目模様が均等に描かれたボードは当然紙。
そのヘックスの上に並べるユニット(戦闘力や部隊名、車両名などが書かれているもの)も、厚紙。
これらユニットのスペックが細々と記された情報も、紙。
戦闘力、地形、気象状況などなど、様々な諸条件を足したり引いたりするための計算用紙も、紙。
そして最後はサイコロを振って出た目で決める。
紙とサイコロで戦争をするという、アナログ・アナログしまくったウォーゲームでしたが、いま考えれば面倒臭いけど楽しかったですね。
作戦司令官のような気分になれて。
ただ、やっぱり時間がかかる。
学校の休み時間の合間にできるようなシロモノではありません。
盤上に並べるだけで昼休み終了です。
放課後にも試してみましたが、戦線が膠着状態に陥ると、いくら時間があっても足りない。
教室の中、机を並べてやっているので、下校時間になったら、いったん片付けなければならないのも心残りだし、なにしろ面倒くさい。
だから、我々の関心は、いつしか戦略級や作戦級のゲームから、乗り物同士が一騎打ちをするような戦術級ゲームにうつりかわっていきました。
そこで私たちが夢中になったのが「タイガーI」という戦術級のゲームでした。
メーカーはたしかエポック社。
私が小遣いで3000円か4000円で松坂屋か高島屋のおもちゃ売り場で買ったものです。
西部戦線が舞台となったゲームで、登場する車両はドイツ軍の装甲車両、対するのはアメリカとイギリスの装甲車両でしたね。
もちろんゲームのシナリオはあるのですが、史実通りの作戦を再現しようとすると時間がかかってしまうので、我々は好きな戦車を選んで、好き勝手に戦わせて遊んでいました。
戦車の移動力の数値以内にコマを進め、敵戦車が射程距離にはいったら発砲することも出来るのですが、その際に戦車の砲弾の発射速度や、距離、風向き、大砲の威力、敵の車両の向き(正面か側面か後面かでずいぶん装甲の厚さが異なる)などのもろもろの条件を足し算引き算して、サイコロを振る。
計算がちょっと面倒くさいけれども、なかなか短時間で雌雄を決することが出来るため、プレイしていて面白かったですね。
しかし、それ以上に楽しかったのが、ゲームに付属していた大量の戦車のデータ表を見ることでした。
タミヤから発売されていた戦車は、毎年タミヤカタログを読んでいたのでおおかた覚えていたのですが、英国戦車のクロムウェルやファイヤーフライなどは、このゲームで覚えました。
さらに、戦史を知るきっかけにもなりました。
特にドイツのミハエル・ヴィットマン率いる戦車隊が、クロムウェル巡航戦車をばたばたと撃破しまくった「ヴィレル・ボカージュの戦い」のシナリオは弟と何度も挑戦した記憶があります。
その後、このゲームの続編というか姉妹編の「パンサー」というゲームが発売されまして、これは東部戦線の戦車線のゲームなのですが、そこに登場するソ連戦車の性能の極端さ加減には腰を抜かしましたね。
極端に装甲が分厚いんだけど、極端にトロかったり。
極端に威力があるんだけど、極端に発射速度が遅かったり。
移動力と威力はあるが、命中精度が極端に低かったり、と。
西部戦線の戦車、つまりドイツ、アメリカ、イギリスの戦車は、わりとまんべんなくバランスが取れているんですよ。
しかし、これに慣れた感覚でソビエト陸軍としてプレイすると、「なんだ、このアクシズのガザC軍団は!」みたいな気分になるんですよね。
頭数はそろっているけれども、クセのある性能なので、作戦上の運用を間違えると、痛い目に遭うこと必至なんですよ。ただ、KV-IIなんかは、鈍足だし命中率悪いんだけど、当たるとデカい!みたいな「たまに猛烈に強い」ことはありましたが。
そんな中で、私がもっとも運用上バランスよく、かつ強い戦車と感じたのが、ドイツのキングタイガーでしたね。
装甲、移動力、打撃力などなど、あらゆる面でバランスが取れていて、やっぱり最強の戦車だなと思いました。
ただ、終戦間近に登場した車両であるため、あまり活躍できなかった戦車なんですよね。その点は「ガンダム」におけるゲルググに近いものがあると思います。
次に、個人的によく選んでプレイしていた戦車がヤークト・タイガーだったんですよ。
これ、砲塔が回転しない駆逐戦車。
いわゆる「まちぶせ戦車」だったため、戦車同士がくんずほぐれつの戦いには向いていませんが、ひとたび生垣や廃屋など、視界を遮るヘックス上に配置して迎え撃つと無敵ですね。
圧倒的な破壊力を誇りますし、たとえ運悪く被弾しても、車両正面であれば、まず破壊されることは皆無。
なんて無骨でカッコいい戦車だなと思ったものです。
それに加えて、戦車兵、オットー・カリウスが書いた『ティーガー戦車隊』を読むと、カリウスが戦争末期に搭乗していた戦車がヤークト・タイガーではありませんか。
ますます、ヤークト・タイガーのことが好きになりました。
たぶん、その直後だと思います。
タミヤのヤークト・タイガー(ハンティングタイガー)を購入したのは。
今は仕事が忙しくて作る暇はないけれど、いつか作ろうと押し入れの中に眠らせておいたのですね。
しかし、寝かしておくだけでは勿体ないし、新しいエアブラシ(コンパクトサイズの充電式)も手に入れたので、それのデビュー作としていっちょヤクトタイガーを作ってやろうと思った次第なのです。
あっさり完成
独特な重量感と趣きを醸し出すタミヤのパッケージは、今も昔も変わらずです。
箱をパカッと開けるとピッシリパーツが詰まっています。
箱の中です。
— Model Making (@modelnica) March 11, 2021
中身を取り出したところ。
組み立て説明書です。
古いキットなので、紙がくたびれています。
パーツを並べてみました。
パーツ数は少ないので、すぐに組めそうですが、車体側面の履帯(キャタピラ)などを引っかけるフックが破損しそうで怖い……。
なんていっているうちに、どんどん形になっていきました。
転輪は、特に奥のほうの転輪は、組み立てた後で塗れない可能性があるので、先に黒やマホガニーのスプレーを吹いておきました。
ほぼ完成しかけた車両全体に、黒⇒マホガニー⇒ダルレッドという順番でスプレーを吹いてプラスチックの下地を塗りつぶし、その後、蛍光オレンジを吹き付けてみました。
充電式コンパクトエアブラシのデビュー色は蛍光オレンジです。
ボタンを押せば、自動的に電源がオンになったりオフになったりするため非常に作業がラクになりました。
蛍光オレンジが乾いたら、今度はミドルストーンを吹き付けました。
下地塗装の段階で、スプレーをムラムラに吹いているので、そのランダムさ加減が、薄く塗料を吹き付けたときのメリハリになっているような気がします。
と、調子に乗って塗装をしていたら、やっぱりやってしまった! 車両側面のフックを指先で折ってしまった!
なので、手近な余剰パーツでごまかします。
このリュックは、アメリカの対空戦車ヨークを作った時の余りパーツです。
国籍も時代も違うけど、まあいっか。
で、全体的にグレーっぽかったので(なぜか黄色系のオレンジやミドルストーンを吹いたにもかかわらず)、Mr.ウェザリングカラーのフィルタリキッドイエローを平筆で薄く延ばすように塗装し、乾いたらデカールを貼って9割完成。
油彩でアクセントを入れて、ヤクトタイガー、完成です。
いつものように、コテコテに汚さず、凹みを中心に流し込み、こぼれたり、はみ出た箇所を筆で伸ばしていきました。
いつものように、バーントシェンナをメインに。
より凹部を際立たせたいところには、バーントアンバーやピーチブラックを追加して、筆で伸ばしたりふき取ったりしました。
この角度から見ると、ヤクトパンサーっぽくもありますね。
もうちょいオレンジな要素はふき取っておくべきだったかな。
露骨にオレンジ残りまくりな箇所もありますからね。
この、ノッペリかつ強そうな感じがたまらない。
このアングルから見てもヤクトパンサーっぽい。
とにかく砲身が太いのなんの。
大戦末期も末期に生産された車両なので、あまり汚れていない車輛もあったことでしょう。
というわけで、中学生の頃から、「作ろう⇒今はまだ」を繰り返していたヤクトタイガーですが、ようやく完成にこぎつけることが出来ました。
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記:2021/03/20