ライヴ・アット・モントルー/ボビー・ハッチャーソン

      2021/02/11

若き日のウディ・ショウの名演も聴ける

ひとくちに「モード奏法」といっても、ピアニストが積み重ねる音には様々なタイプの響きを有していることは言うまでもない。

モードジャズの代表的なピアニストを二人あげるとすれば、やはりマッコイ・タイナーとハービー・ハンコックだろう。

対極、とまではいわないにせよ、両者が有する響きの質はずいぶんと違う。

マッコイの響きは、明か暗かといえば「暗」。

もちろん、それほどはっきりと分けられるわけでもないのだが、あえて強引に二者択一で分けると。

一方、ハンコックの響きは「明」の成分が強いと個人的には感じている。

また、ジャズ以外のジャンルにたとえるとすれば、マッコイの場合はロック、ハンコックの場合はクラシックかな?

これも乱暴な分類であることは重々承知した上で。

そんな対極な二人をうまくブレンドした響きを醸し出すピアニストがセシル・バーナードなんじゃないかと思う。

これはボビー・ハッチャーソンの『ライヴ・アット・モントルー』を聴けばよくわかる。

マッコイの成分が「4」だとするとハンコックの成分が「6」の割合。これもあくまで主観ではありますが。

いずれにせよ、両方のピアニストが好きな人にとっては、彼らのおいしいところを両方楽しめるわけだ。

ただし、彼のピアノはハンコックやマッコイのサウンドキャラを逆説的に証明しているかのごとく印象に残るフレーズが少ない。

サラリとどの音も均等に耳を通り過ぎてしまうきらいがある。

でも、それでいいのだとも思う。

このアルバムの主役はあくまでハッチャーソン、次いでウディ・ショウなのだから。

ハッチャーソンの奔放なアドリブと音色は、あたかもひとつひとつの音が一粒一粒の宝石が配列されているかのよう。

メロディ命!な人は敬遠するであろう、スケール練習的なメカニカルなフレーズも多用されているが、いいではないですか宝石なのだから。

パターン的に美しく配列された輝く宝石は美しい。

このアルバムのいいところは、演奏が進むにつれてどんどんエキサイティングになっていくことだろう。

1曲目の肩慣らし的リラックスムードの《アントンズ・ベル》よりも、2曲目の終盤になるにつれエキサイティングになっていく《ザ・ムーントレーン》。

さらに最初から飛ばしてくれる3曲目の《ファラローン》や、ラストの熱を帯びた《ソング・オブ・ソングス》と、だんだんとメンバーの体温が上昇していく様が手に取るようにわかる。

そして、ウディ・ショウのトランペット。

これがまた素晴らしすぎる。

かなり若い年齢での演奏にもかかわらず、この聴かせるアドリブの構築力はどうだ。

若さゆえのはじける勢いももちろん有しており、このバランス感覚はちょっと異常なほど。

同じモードジャズに適合した代表的なトランぺッターにフレディ・ハバードがいるが、もしかしたら若いころのハバードよりも若い頃のショウのほうが好きかもしれない。

フレーズはもとより、音色そのものがものすごくジャズなんですよ。

彼が発するたったの一音でも、大好きなケニー・ドーハムにも通ずる「渋み」のようなものを感じてしまう。もちろんテイストは全然違うのだが。

おそらく、バックのピアノトリオにハッチャーソンのヴァイブだけのカルテットだと、途中で中だるみしてしまうかもしれない。

あるいは、ウディ・ショウのワンホーン・カルテットでも同様のことが言えるかもしれない。

しかし、音の質の異なるトランペットとヴァイブという、この2つの楽器が交代で主役を務め、さらにモードの海を自在に動き回ることが出来るこの両者が相互に刺激を与えあっているからこそ、最後の一瞬まで聴き飽きる瞬間を持たせないほどの濃密、かつスリリングな演奏が生み出されたのだろう。

傑作です。

記:2013/04/22 

album data

BOBBY HUTCHERSON LIVE AT MONTREUX (Blue Note)
- Bobby Hutcherson

1.Anton's Bell
2.The Moontrane
3.Farallone
4.Song Of Songs

Bobby Hutcherson (vib)
Woody Shaw (tp)
Cecil Barnard (p)
Ray Drummond (b)
Larry Hancock (ds)

1973/07/05
Live at the Montreux Jazz Festival

YouTube

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