イン・ア・サイレント・ウェイ/マイルス・デイヴィス
2022/08/15
淡く、深い
シンプルなサウンドだが、深い。
このアルバムには「シンプルで深い」が貫かれている。
ジャケット。
渋いこげ茶色の地から浮かび上がるような、マイルスのポートレイト。
シンプルかつ力強いデザインだが、この色彩のニュアンスと、マイルスの表情は何を物語っているのだろう?
深い。
タイトル。
イン・ア・サイレント・ウェイ。
シンプルながらも、こちらに謎かけをされているような、そんな暗示めいた深さがある。
実際の音源を聴きながら、このタイトルを噛みしめると、なおさらだ。
リズム。
“あの”トニー・ウイリアムスに、あえて単調なリズムを叩かせている。
まるで、情報処理速度が猛烈に速いスーパーコンピューターに、ビット数をほとんど使わない単調でシンプルな演算をひたすら繰り返させているようだ。
機械的な等速直線運動のハザマから生まれる微妙なネジレと揺れ。
これがマイルスの狙いだとすると、まさに目論み通り。
深い。
サウンド。
スカスカとも言ってよいほどの、音と音のバランス。
タイトル曲の牧歌的なメロディ。
単純に心地よいが、サウンドの奥底に不穏で重たい雰囲気も垣間見える。
この正体はいったいなんだろう?
気になる。
一聴シンプルなくせに、醸し出る深さは、じつはこんなところにもある。
その後に発表される『ビッチェズ・ブリュー』が油絵だとすると、『イン・ア・サイレント・ウェイ』は、水彩画だ。
淡い色調がかもし出すシンプルな空間は、しかし、深い。
私は、いまだに、このサウンドの謎と全貌を理解しきっていないと思う。
気になる。
だから、また聴く。
知らず知らず、愛聴盤となっている。
マイルスのバンドに加入したジョー・ザヴィヌルが、マイルスより「スタジオに来い」と言われ、はい了解。
再びマイルスから電話。
「曲も持ってこい」。
ザヴィヌルは、故国オーストリアに一時帰国した際に数分で書き上げたという曲を翌日スタジオに持っていった。
それが《イン・ア・サイレント・ウェイ》。
マイルスが、この旋律にオープントランペットで命を吹き込む。
牧歌的、楽園的でありながらも、様々なニュアンスを暗示しており、やはり、深い。
記:2005/01/15
album data
IN A SILENT WAY (CBS)
- Miles Davis
1.Shhhh/Peaceful
2.In A Silent Way/It's About That Time
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ss)
John McLaughlin (g)
Herbie Hancock (el-p)
Chick Corea (el-p)
Joe Zawinul (el-p)
Dave Holland (b)
Tony Williams (ds)
1969/02/18