陰陽五行説〜目には見えない“音”を知るために
text:高良俊礼(Sounds Pal)
音楽 感動
人間の感性と思想とが生み出す創造の産物である音楽は、目に見えないし、形があるようなものではない。
楽器や楽譜、アーティストやバンドといった「表現する型」こそあれど、それはあくまでかりそめであり、音楽そのものではない。
何故、このように目に見えず形すらないものに、人は感動したり興奮したりするのだろうか? と、皆さんは真剣に考えたことはないか?
音楽 不可視
私は音楽とは別に短歌の結社にも所属していて、五七五七七の定型文を毎日作っているが、短歌の定型や文字も、深く追究すればするほどかりそめのものに思えてきて、私はますます考えるようになった。
「人は何故、かりそめのものを通じて、目に見えない、形すらないものの本質を感じることが出来るのか?」
これは永遠のテーマである。
このテーマを読み解くべく、私は哲学の本を片っ端から読み漁った。
ニーチェ、プラトン、サルトル、キュルケゴール、ハイデッカー、等々、様々な「哲学」を読みながら音楽を哲学的に思考することで、音楽に対する理解はかなり深まったが、西洋哲学を突き詰めると、必ず宗教的なドグマに突き当たる。
否定的なものであれ、肯定的なものであれ、哲学思想の中で「神」という存在は究極の具象であり、人智を超えた「限界」であった。
音楽という不可視の領域は「神」という絶対的な価値観にブチ当たると、余計に難しいものに思えてくる。
易経 老子 陰陽五行説
哲学書を読み漁ることによって、私の疑問は良い意味で更に深まった。
読者の方は「何をそこまでクソ真面目に考えるのか?理屈抜きで楽しめばいいじゃない」と、思われるかも知れないが、私は皆さんに少しでも多くの良質な音楽と出会って欲しいし、それを「どう楽しんでもらうか?」ということを一番大切に思って文章を書く者として、音楽について深く考察する義務がある。
それに、これは性質上だが、こうやって真剣に思考して悩むことが実は凄く「楽しいこと」だったりする。
さて、私のこの「何故?」を紐解く重要なキィは、多くの哲学書に埋もれた本棚の奥の意外なところにあった。
それは、幼い頃から「必須科目」として読んでいた「易経」や「老子」、それに陰陽五行説関係の本たちだ。
陰陽五行説 学問
東洋には「陰陽五行説」という思想がある。
「陰陽」といえば我が国では陰陽師とか陰陽道とかのイメージで、何やらオカルトやまじないめいた怪しげなものとお思いの方も多いと思うが、古代中国で生まれた陰陽五行説は、まず道徳であり、自然科学であり、、物理学であり、環境工学であり、心理学である。
つまり「学問」が体系付けられて分類される以前の時代の、総合的な学問のようなものだと思ってほしい。
風水や卦は、この陰陽五行の思想に基づいたものであるし、身近なところでは暦の中の「曜日」なんかも、陰陽五行説のほんの一部を発展/アレンジさせたものある。
陰 陽 コントラスト
陰陽五行の根幹にある物の考え方をものすごくざっくり言い表すと、
『大自然の大きな摂理から、人間社会の細かな事象に到るまで、すべての事柄に陰極と陽極が存在し、その両極が互いに作用することで理力が生まれ、物事は動いて行くよ。世の中にはパッと見てすぐにそれと判らんよーな曖昧なものがとても多かったりするけれども、それこそ陰と陽が混ざり合って互いに影響を与え合っている姿そのものだから、曖昧なままでいいんだよ』
と、いうものだ。
『曖昧なものは曖昧でいい。むしろその“曖昧”の中にある陰と陽のコントラストを見極めて楽しみなさい』
というこの思想は、私の「何故?」を心地良く解いてくれた。
その考えを根幹に持って音楽と対峙すると、実に楽しいし、音楽の奥底にある精妙で不可視の部分から「伝わってくるもの」がより細かく「分かる」のだ。
音楽観 陰陽五行 西洋哲学
例えば
「あ、マイルス・デイヴィスって“陰”だよね、でも新しい音楽をどんどん取り入れたり、ポップスやったりする姿勢は”陽”だね」
とか
「アメリカン・ロックはパワフルでワイルドなバンド(陽)が多いけど、ニルヴァーナとかヴェルヴェット・アンダーグラウンドみたいな屈折した”陰”のバンドが流れを変えることがあるよね」
とか。
もっと単純に「サザンオールスターズはすっごく明るくてポジティブな音楽作ってるけど、桑田圭祐のソロ・アルバムは時々ゾッとするようなシュールな曲が入ってる。あ、サザンの歌詞もよくよく読んだらシュールだわこれ」
とか。
読者の皆さんには、別に陰陽五行の勉強をしなさいとはいわない(実際面倒臭いからオススメはしない)が、音楽を聴くときに、基準として「陰と陽」というモノサシを頭の隅に置いて音楽と対峙して欲しい。
陰陽五行の考え方は、私の音楽観を豊かに拡げてくれた。
と、思ったら実は逆だ。
音楽こそが、西洋哲学や陰陽五行説を私に学ばせて、理解や吸収を後押ししてくれたのだった。
記:2014/10/19
text by
●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル)