ジャコ・パストリアスの肖像/ジャコ・パストリアス
2021/12/02
「とびきり」のポートレイト
ジャコ・パストリアスというベーシストの履歴書だと思う。
しかも、正面アップで撮影された「宣材」付きの。
「宣材」とは、タレントや、タレントの卵が、オーディション際の書類選考用に提出するプロフィール用の写真のこと。
お察しのとおり、「宣伝材料」の略で「せんざい」と読む。
きちんとプロのカメラマンにスタジオで撮ってもらった「とびきり」の写真が使われることは言うまでもないが、このアルバムのジャケット写真も「とびっきり」素晴らしい。
自信溢れた表情で、真っ直ぐにこちらを見つめる瞳は、どこまでもピュアで澄んでいる。
中から飛び出してくる素晴らしいサウンドと、とびっきりのジャケット。
完璧といっても良いほど、ジャコ・パストリアスという一人のアーティストを第三者に伝えるに相応しい組み合わせだと思う。
プレゼンテーション
変化に富んだアルバムの中身は、まるでジャコが聴く者に、こう語りかけているようだ。
え~、私、ジャコ・パストリアスは、こんなベーシストです。
ジャズが出来ます。
ビ・バップだって得意です。
それが証拠に、ほら、バップの名曲かつ難曲の《ドナ・リー》をベースでテーマとアドリブを弾いちゃってます。
しかも、ラストは転調までしちゃってまっせ。
コンガとのデュオってのも、面白い組合せでしょ?
あと、新しい奏法も発見しましたですよ。
ギターやベーシストがチューニングするときに使うハーモニクスって呼ばれる倍音があるじゃないですか? コーン!っていう高い音ね。
これを効果的に使えば、アンサンブルがこんなに鮮やかになるし、演奏上の良いアクセントにもなるでしょ?
さらに、ベース一台でのソロだって、ほら、こんなに綺麗に出来ちゃうんだから。
《トレイシーの肖像》ね。
あ、トレイシーはボクの奥さんの名前っす。
それに、ボク、ソウルも得意っす。
ホラ、聴いてみてくださいよ、このグルーヴ感。
ジャズとはうって変わって、反復の連続のこのリフも、ほらほら、かなぁりグルーヴしてるでしょ?
しかも、ソウルの大御所サム&デイヴという豪華ゲスト!
あと、アルトサックスはデヴィッド・サンボーンだからね!
《カム・オン・カム・オーバー》って曲ですよん。
“ジャズのベーシスト=4ビート刻むベーシスト”ってイメージだけでボクのこと括って欲しくないですからね。
色々な音楽が出来るし、やりたいと思ってまーす。
そうそう、色々な音楽といえば、スチールドラム!
多分、スチールドラムをこのようなタイプの演奏に取り入れたのは、きっとボクが始めてなんじゃないかな?
ベースのテクニックだけじゃなくて、アイディアマンとしてのボクも評価して欲しいなー。
あと、曲も作りますよー。
《コンティニューム》っていう、ちょっと哲学的なタイトルなんだけど、ほら、奥行きのある曲でしょ?
長距離バスに揺られながら作った曲でーす。
もちろん、ベース一本でも弾くことが出来る曲ですよ。
でもね、ボク、作曲だけじゃなくて、アレンジも出来るんですよ。
さっきのソウルっぽい曲のホーン・アレンジはボクだし、ハービー・ハンコックの《スピーク・ライク・ア・チャイルド》のストリングス・アレンジもボクでーす。
ベースプレイだけではなくて、様々なボクのアイディアと音楽性をトータルで捉えて欲しいな。
だから、このようなアルバムを作りました。
是非聴いてね。
…って声が聞こえませんか?(聞こえるわけないか)
・アイディア豊富
・切り口多彩
・テクニック抜群
と、3拍子が揃った、ゴチャ混ぜなのに、「ジャコ!」という一本の太い芯が通った名盤なのです。
『ジャコ・パストリアスの肖像(邦題)』というアルバムは。
記:2003/10/24
album data
JACO PASTORIUS (Epic)
- Jaco Pastorius
1.Donna Lee
2.Come On Come Over
3.Continuum
4.Kuru/Speak Like A Child
5.Portrait Of Tracy
6.Opus Pocus
7.Okonlole Y Trompa
8.(Used To Be A) Cha-Cha
9.Forgotten Love
Jaco Pastorius (el-b,horn arrangement,strings arrangement)
Sam & Dave (vo) Track-2
Randy Brecker (tp) Track-2
Ron Tooley (tp) Track-2
Peter Gordon (frh) Track-7
Peter Graves (bass-trb) Track-2
Hubert Laws (piccolo) Track-8
Wayne Shorter (ss) Track-6
David Sanborn (as) Track-2
Michael Brecker (ts) Track-2
Howard Johnson (bs) Track-2
Herbie Hancock (el-p) Track-2,3,4,6,8,9
Alex Darqui (el-p) Track-3
Ohello Molineaux (steel-ds) Track-6
Lerow Williams (steel-ds) Track-6
Narada Michael Walden (ds) Track-2
Lenniy White (ds) Track-3,6,8
Bobby Economou (ds) Track-4
Don Alias (per) Track-1,2,3,4,6,7,8
1975年9,10,12月