ザ・ジャズ・プロフェッツ/ケニー・ドーハム

   


ザ・ジャズ・プロフェッツ

気軽に聴けるハズレ曲なし盤

“のり弁”ですね。
失礼な言い方かもしれないけど、愛着をこめて。

このアルバムは、私にとっては“のり弁当”。

“のり弁”って、なんとなく嬉しくないですか?

食べるとき、「よーし喰うぞ!」とハシをつける2秒前。あるいは、冷えたのり弁をレンジで暖めたときに漂ってくる、なんとも食欲をくすぐるい いニオイ。

ささやかだけれども、なんだか嬉しい。

この感覚分かるでしょ?

のり弁って、特に高い食べものというわけでもないし、グルメを気取るメニューでもない。

「オレ、昨日の夜は彼女とのり弁喰ってさぁ」と自慢できるようなシロモノでもないし、むしろ貧乏臭いとまでは言わないが、ゴージャスの対極。

圧倒的に庶民的。

昔、母親が作ってくれたのり弁でもいいし、弁当屋で売られているのり弁でもいい。

ハズレって少ないでしょ?

のり弁は、たまに食べると、とてもおいしい。

かといって、2日連続でも、別に「まぁ、それはそれでいいんじゃない?」と広い心で許せる食べ物だ。

ケニー・ドーハムというトランペッターが醸し出す味って、まさにそれなんですよ。

とりたてて派手でもないし、すっげぇ~!と驚くようなプレイをする人というわけでもない。

好きな食べ物は?ときかれて、真っ先に「のり弁!」と言う人はそんなに多くはいないと思う。

同様に、マイルスやブラウニーといった寿司やカレーといったポピュラーな定番や、フォアグラのような高級メニューを真っ先に挙げる人はいるが、真っ先にケニー・ドーハムといったのり弁を筆頭に挙げる人は少ないと思う。

しかし、寿司やフランス料理が好きな人も、のり弁は好きな可能性は高い。

優先順位が1番や2番じゃないだけだ。

きっと、意識の中の5番目から14番目ぐらいの間に不動で位置しているはずなんだけど、あまりにも「のり弁が好きなこと」が当たり前すぎて、意識に上らないだけなのだ。

だから、ジャズ・マニアの意識の中のどこかにはドーハムはいるはずだ。

「今日はのり弁でも喰うか」という気分で、「今日はドーハムを聴くか」と、軽い気分でアルバムをかけても、ドーハムは必ずこちらの期待にこたえてくれる。

のり弁が確実に食欲を満たしてくれるように、ドーハムも確実にリスナーのジャズ心を満たしてくれる。

のり弁が飽きないように、ドーハムも聴いてて飽きない。

聴けば聴くほど味が出る、といった意味では、スルメ的な要素も高いジャズマンだと思う。

そんなドーハムの作品の中では、おそらくベスト3にはいるんじゃないかと思っているのが、コレ、『ジャズ・プロフェッツ』。

ジャズ・メッセンジャーズ退団後に結成したグループ、ジャズ・プロフェッツとしての録音だ。

収録時間も30分前後と、腹八分目なところも飽きずに付き合える大きな理由かもしれない。

しかし、腹八分目とはいえ、こののり弁は、おかずとともにとても充実しているし、味も確かだ。

特に、J.R.モンテローズといった、地味だけれども定番的なおかず、弁当でいうと、玉子焼きや、タコさんウインナーの存在が、ドーハムというのりご飯との相性が抜群に良く、互いを良い形で、互いを引き立て合っている。

だから、『ジャズ・プロフェッツ』は、全国の“のり弁好き”必携(?)のアルバムなのだ。

ちなみに、このアルバム、原盤はABCというレーベルだが、最近発売されているCDは“ルピジウム・クロック・カッティングによるハイクオリティ・サウンド”だそうで、細かいことはよく分からないが、要するに音がとても良くなっている。

特に、サム・ジョーンズのベースが、リアルに浮かびあがり、ギザギザ、ゴリボリと迫力ある音色になって蘇っているのが嬉しい。

記:2002/07/06

album data

KENNY DORHAM AND THE JAZZ PROPHETS VOL.1 (ABC)
- Kenny Dorham

1.The Prophet
2.Blues Elegante'
3.DX
4.Don't Explain
5.Tahitian Suite

Kenny Dorham (tp)
Frank J.R. Monterose (ts)
Dick Katz (p)
Sam Jones (b)
Arthur Edgehill (ds)

1956/04/04

 - ジャズ