ジェリコの戦い/コールマン・ホーキンス
2021/02/05
オール・ザ・シングズ・ユー・アー
先日、アマチュア・ジャズバンドの練習に参加してきた。
アルトサックス、ギター、ドラムスの3人に、私のベースというカルテットで、基本的なブルースやスタンダードの曲をスタジオで合わせた。
なんだか、大学時代のジャズ研時代の練習を思い出し、少し懐かしい気分に浸ることが出来た。
ジャズに関しては初心者の方ばかりだったので、《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》を演奏し終えたあと、メンバーから「この曲の参考になる演奏は誰のものが良いですか?」と尋ねられたが、そのときに、真っ先に口をついて出てきたアルバム名がコレ。
コールマン・ホーキンスの『ジェリコの戦い』。
久しく聴いていなかったアルバムなので、思わず無意識に口をついて出てきた自分にちょっと驚いたが、すぐにジャズのベースを始めたての頃の私は、このアルバムを繰り返しかけながらベースの練習をしていたことを思い出した。
つまり、練習するにあたっての格好の素材だったのだ。
もちろん、演奏自体も素晴らしい内容だからということは言うまでもないが、凝った変化球やヒネリを用いずに、比較的オーソドックス、かつストレートな直球で勝負をしている演奏だから、ベースを合わせやすかったのだ。
このアルバムでのホーキンスは、少し早めのテンポで《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》を演奏している。
浪々と。
力強く。
この曲の魅力を過不足なく引き出していると思う。
テーマのメロディは特に大きくフェイクをしているわけでもないし、バックのリズム隊もオーソドックスなバッキングに徹している。
《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》という曲のイントロとエンディングは、パーカーが同じコード進行で演奏した《バード・オブ・パラダイス》のバージョンが有名で、この“パーカー・アレンジ”は、後の多くのジャズマンが踏襲しているアレンジだ。
もちろん、ホーキンスもこの“パーカー・アレンジ”を採用しているので、《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》という曲を知らない人でも、この曲の輪郭や雰囲気を掴みやすい内容になっていると思う。
だから、思わず『ジェリコの戦い』のバージョンが参考になりますよ、と口が自然に動いていたのだろう。
この出来事が契機となり、ここ数年まったく聴いていなかった『ジェリコの戦い』を久々に取り出して聴いてみた。
うーん、やっぱり良い。
昔聴いていたときよりも、はるかに良く感じるのは、少しは自分の「ジャズ耳」も成長したのかな?などと思いつつ、最後まで楽しく鑑賞することが出来た。
『ジェリコの戦い』は、聴きどころがたくさん詰まったアルバムだと改めて感じた。
トーク・オブ・ザ・タウン
アルバムタイトルの《ジェリコの戦い》は古い黒人霊歌で、このアルバムの目玉とも言える。
熱くブロウするホーキンスに、ハミングをしながら弓弾きをするメジャー・ホリーのソロが圧巻だ。
圧巻といえば、ベースソロの後に再び登場するホーキンスのブロウも圧巻。
バンド全体が一つにまとまったような一体感、そして大迫力の演奏だ。
《トーク・オブ・ザ・タウン(町の噂)》も素敵な演奏。
しみじみとした気分で味わえる。
こういうタイプの曲では、サックス奏者の力量がハッキリと出るが、もちろんホーキンスのプレイは文句のつけようもない内容。
この演奏は、単にしみじみとしたバラードにとどまらず、ホーキンスならではの実験精神にも溢れている。
ブランフォード・マルサリスは、この曲に限らずではあるが、「バラードでエイス・ノートをこんなに沢山使ってみせた人はそれまでにいなかった。」と以前、雑誌のインタビューで解析していた。
ホーキンスのバラードの特徴は、ノリはスイング・ジャズのものでありながらも、スイング系のミュージシャンが奏でるフレーズよりもモダンなフレージングを多用していたのだと分析している。
この一歩進んだフレーズを構築するセンスに影響を受けたのがパーカーとしており、パーカーはレスターからの影響が強いものかと思っていた私は(レスター・ヤングのレコードを持って「山ごもり」をしたという伝説があるため)、少々驚いた記憶がある。
ホーキンスのフレージング解釈をさらに一歩進めたパーカーらビ・バップのジャズマンとホーキンスの違いは「ノリ」にあるのだが、2拍目を強調したシンコペーションが基調をなすスタイルのビバップに対し、ホーキンスのスタイルは、1拍目を長めにとるかわりに2拍目を短めに演奏している。
これが演奏に安定感がもたらされる秘密で、我々がホーキンスの悠々としたバラードに感じる気持ち良さは、スイング特有の心地よいノリと、モダンなフレーズがバランス良くミックスされているからなのだろう。
結果、貫禄、存在感、緩急の妙が生み出され、深くコクのある演奏になるのだろう。
トミー・フラナガン
ベテランならではの貫禄と余裕。そして、ときに激しくブロウするホーキンス。
一度聴いたら忘れられないほど、独特なソロを奏でるメジャー・ホリー。
そして、もう一人、忘れてはいけないのは、ピアノのトミー・フラナガンだ。
彼の好サポートがこそ、このアルバム全体の隠れた聴きどころだ。
このアルバムにも《マック・ザ・ナイフ(モリタート)》が収録されているが、フラナガンは、ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』や、ケニー・ドーハムの『静かなるケニー』の《マック・ザ・ナイフ(モリタート)》の伴奏もつとめている。
リーダーのスタイルによって演奏のアプローチが違うので、当然バックのフラナガンのピアノのスタイルも違う。
それぞれのバージョンを聴き比べると面白いし、上記に揚げた、これら名盤でピアノを弾いているあたり、トミー・フラナガンは、かに名脇役として重宝されているかが分かろうもの。
CDでは、2曲ボーナストラックが収録されている。
《ビーン・アンド・ザ・ボーイズ》と、《イフ・アイ・ハド・ユー》。
原盤にしか入っていない演奏と比較しても何ら遜色の無い演奏だ。
とくに、《ラバー・カム・バック・トゥ・ミー》のコード進行を下敷きに作られた《ビーン・アンド・ザ・ボーイズ》は、個人的に好きな曲だけあって、追加収録は嬉しいところだ。
邦題『ジェリコの戦い』で親しまれているこの名盤は、1962年、ニューヨークは「ヴィレッジ・ゲート」でのライブ録音。
そして、ホーキンス、プロ生活40年目の会心の名演をたっぷりと堪能することが出来る名盤中の名盤といえよう。
記:2002/07/13
album data
HAWKINS! ALIVE! AT THE VILLAGE GATE(ジェリコの戦い) (Verve)
- Coleman Hawkins
1.All The Things You Are
2.Joshua Fit The Battle Of Jericho
3.Mack The Knife
4.It's The Talk Of The Town
5.Bean And The Boys
6.If I Had You
Coleman Hawkins (ts)
Tommy Flanagan (p)
Major Holley (b)
Eddie Locke (ds)
Recorded"Village Gate"
1962/08/13 & 15