ジ・エミネント・J.J.ジョンソン Vol.1/J.J.ジョンソン

      2021/02/16

ほんの数音でタイムスリップ!

1曲目の《ターン・パイク》の冒頭から、いきなり時代がタイムスリップする。

ほとばしるビ・バップの熱気は、イントロのケニー・クラークのドラミングから突然おそいかかり、次いで典型的な循環コードの上をセロニアス・モンク作曲の《セロニアス》を彷彿とさせる旋律をホーンアンサンブルが繰り広げる。

この響き、この速度、このムードは、ビ・バップ好きが耳にすれば、ほんの数秒で引き付けられること請け合い。

テーマ終了後に登場するパリッ!と締まりのあるクリフォード・ブラウンのトランペットソロは、正しくジャズの熱気をリスナーの耳に届けてくれる。

事務職に就いていたJ.J.

ブルーノートにレコーディングされたトロンボーン奏者J.J.ジョンソンの初リーダー作『ジ・エミネント』。

このセッションが録音される前の“ジェイ・ジェイ”ことジェームス・ルイス・ジョンソンは、ロングアイランドのオフィスで事務職に就いていたのだという。

生活が不安定なジャズマン稼業ゆえ、彼は、第一線から退き、オフィスマンとして糊口をしのいでいたのだ。

こんなにも卓越した技量を持つジャズマンですら、今も昔も「食えない」というのが、ジャズの哀しい現実なのだ。

しかし、ボクシングと同様、ハングリー精神があるからこそ、優れた演奏、優れた作品が生み出されるのかもしれない。

事実、この『エミネント』は、日ごろJ.J.が温めてきたであろう様々なアイディアが封じ込められているのだ。

じっくりと長く付き合える名盤

では、肝心のアルバム紹介を。

《ラヴァー・マン》、《ゲット・ハッピー》などの選曲。

また、リズムセクションが結成間もないモダン・ジャズ・カルテットのメンバーに、ホーン陣がジミー・ヒースにクリフォード・ブラウンという布陣は、耳の肥えたジャズマニアならずとも、贅沢で美味しい組み合わせなことは言うまでもない。

ビ・バップ特有のスリリングな熱気がダイレクトに伝わってくる。

タイトルのエミネント(卓越した)通り、素晴らしい技量を持つトロンボーン奏者、J.J.ジョンソンの魅力のみならず、若き天才トランペッター、クリフォード・ブラウンの輝かしい演奏、どこまでもジャズの味をかもし出すジミー・ヒースの甘くてダークなテナーサックスも心行くまで堪能できる内容となっているのがアルバム前半のセッション。

上記メンバーによるセッションは、1953年の6月に行われたが、これより1年3ヵ月後の1954年9月に行われたセッションは、J.J.のワンホーンとなっている。

ピアノがウイントン・ケリー、ベースがチャールス・ミンガス、ドラムは前回と同様にケニー・クラーク。これにサブーのコンガが加わっている。

トロンボーンの太くてまろやかな味わいを堪能できる後半のセッションは、特に《トゥ・マーヴェラス・フォー・ワーズ》や《コーヒー・ポット》が良い。サブーのコンガの参加もあり、楽しく力強い内容だ。

ピアノが軽妙かつ哀感を漂わすウイントン・ケリーというのも、絶妙な風合いを演奏にもたらしている。

バップの香りを色濃く漂わす3管編成の演奏のみならず、テイストの違うコンガ入りの演奏も加えることで、飽きのこない内容になっていることは言うまでもない。

様々な編成から、様々な楽しみを見出せる。
じっくり長くつきあえる名盤だ。

記:2010/11/23

album data

THE EMINENT J.J.JOHNSON VOL.1 (Blue Note)
- J.J.Johnson

1.Turnpike
2.Lover Man
3.Get Happy
4.Sketch I
5.Capri
6.Jay
7.Old Devil Moon
8.It's You or No One
9.Too Marvelous for Words
10.Coffee Pot

#1-5
Jay Jay Johnson (tb)
Clifford Brown (tp)
Jimmy Heath (ts)
John Lewis (p)
Percy Heath (b)
Kenny Clarke (ds)

1953/06/22

#6-9
Jay Jay Johnson (tb)
Wynton Kelly (p)
Charlie Mingus (b)
Kenny Clarke (ds)
"Sabu" Martinez (conga)

1954/09/24

 - ジャズ