ジョン・ルイス・ピアノ/ジョン・ルイス
独特のタイミング
ポツン、ポツンと、ピアノの一音一音を“置くように”弾いてゆくジョン・ルイスのピアノは独特だ。
まるで、彼の呟きが、そのままピアノの音として空間に放り出されているかのよう。
そして、この独特なタイミングは、セロニアス・モンクのピアノの朴訥さとはまた違った、端正な呟きとでも言うべきか。
抑制の美
一曲目の《ハーレクイン》のピアノから、その独特な間を楽しめる。
全体的に抑制の美がいきわたり、なおかつ音数も削ぎ落とされたピアノは、ガッツリとお腹一杯な満足感を得るには不向きではあるが、なぜか耳を惹きつけてやまない魅力がある。
録音データを見ると、56年の2月から、57年の夏までの1年半の間に3回のセッションに分けられてレコーディングされている。
当時の彼は、活動の時間すべてをMJQに費やしていた上に、平均睡眠時間が3時間しかなかったほど多忙だったのだそうだ。
そんな忙しい合間を縫って、少しずつレコーディングを重ね、ようやく1枚のアルバムとして世に出たのが、この『ジョン・ルイス・ピアノ』だ。
日本盤のライナーによると、このアルバムが録音された背景には、アトランティックのプロデューサーからの熱心なオファーがあったからだそうで。
しかし、「ソロイストというよりも、最高の伴奏者を目指していた」という当時の彼にとっては、あまり気が進まなかったようだし、自分名義のリーダー作を吹き込むなど思いも寄らぬことだったらしい。
それほど、MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)の活動に入れ込んでいたのだ。
MJQを離れたジョン・ルイスのピアノは、特にこのアルバムにおいては、本当に同じピアニストなのかと思うほどの差が感じられる。
シンプルな美。
短く上質なエッセイを読んでいる感覚とでも言うべきか。
一言で言ってしまえば、すごく地味。
だが、噛んで含めるようなピアノの味わいは深さは格別だ。
ジャズ的なノリ、いわゆる4ビートのハードバップ的なフィーリングや躍動感をこのアルバムに期待すると、あっさりと裏切られる結果となるだろうが、だからといって、このアルバムの価値を損ねるところではない。
端正なピアノの中からも、じっとりと湧き出るような黒いフィーリングを感じることが出来るはずだ。
7曲目のみ、ギターでジム・ホールが参加しているが、マイルドなギターサウンドがルイスのピアノに暖かな温度を与えており、なかなか素敵な音の組合せだ。
個人的に愛聴しているのは、《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》。
マイルス・デイヴィスのバージョンとも、キース・ジャレットのバージョンとも違う解釈で、彼ならではの味わいだ。
テーマの部分の、右手とメロディと、左手のコンビネーションのセンスには、そこはかとなくバッハの香り。
このシンミリとした感じ、そしてヒッソリとした美しさに、ジョン・ルイスの美的感覚を垣間見るような気がする。
お店を閉店するときにかけるBGMに使うと良いかも……?
記:2002/07/30
album data
THE JOHN LEWIS PIANO (Atlantic)
- John Lewis
1.Harlequin
2.Little Girl Blue
3.The Bad And The Beautiful
4.D&E
5.It Never Entered My Mind
6.Warmeland
7.Two Lyric Pieces:
a) Pierrot
b) Colombine
John Lewis(p)
Barry Galbraith(g)
Jim Hall(g)#7
Percy Heath(b)
Connie Kay(ds)
1956/07/30 #3,5,6
1957/02/21 #2,4
1957/08/24 #1,7