サウス・サイド・ソウル+ナイスン・テイスティ/ジョン・ライト

   

バーのカウンターが似合うピアノ

たとえば、バーのカウンターで女の子と会話が盛り上がってきたとき。

気の利いたバーテンが、ジョン・ライトの『ナイスン・テイスティ』などを、さりげなく流してくれると、すごくいい雰囲気になると思います。

ジョン・ライトの良いところは、華々し過ぎないところなんです。

たしかに「華」はないかもしれないが……

スリー・サウンズのジーン・ハリスにも似た明快さがあるんだけれども、ハリスほどは華がない。
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ジュニア・マンスのようなソウルフィーリングもあるんだけれども、マンスほど重たくない。
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ウイントン・ケリーのような弾けるタッチを彼が弾くシングルトーンも感じる瞬間があるんだけれども、ケリーほど鮮やかで印象に残るわけではない。
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レッド・ガーランドのような優美さも兼ね備えているんだけれども、ガーランドほどの艶やかさはない。
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まだまだ、似たテイストを感じさせる黒人ピアニストは数名思い浮かぶのですが、そのへんにして。

とにかく、上記ピアニストから感じられる気持ちの良いところを兼ね備えていつつも、 「あともう一押し」のインパクトというか強さに欠けているところがあるんですね。

でも、だからこそ良いところもあって。

肩の力を抜いて、リラックスして聴ける「気さくさ」があるので、ライトが弾くピアノには。

匿名性の魅力

また、バーなんかだと、会話の邪魔をしない一歩引いた美学も感じられるかもしれない。

せっかく会話が盛り上がっている中、たとえば、ジーン・ハリスだと、一気に店内のムードが明るくなってしまいそうだし、

ジュニア・マンスだと、会話モードから鑑賞モードに突入してしまいそうだし、

ウイントン・ケリーだと、一緒に鼻歌歌ってしまいそうだし、

レッド・ガーランドだと(ベースがチェンバースの場合)、ピアノに合わせてベースラインを歌ってしまいそうだし……。

つまり、彼らのフレーズや音色や和音の組み合わせなどは、数秒聴くだけで、「あ、このピアノは彼だ!」と分かってしまう個性の持ち主なので、ある程度ジャズを聴いていて、彼らの特徴を掴んで好きになってしまうと、盛り上がりかかった会話でも、意識がどうしてもピアノのほうに向いてしまいそうなのです。

その点、ジョン・ライトの場合は、没個性とまではいわないし、上記ピアニストたちが持つ素敵な要素も全て兼ね備えてはいるんだけれども、「匿名性の魅力」というのかな?

素敵なムードとテイストをたたえつつも、心地よく、こちらの意識の邪魔をしない控えめな魅力があるのです。

だから、別にバーのカウンターではなくても(ジョン・ライトのレコードやCDを置いているようなところは稀でしょうし)、夜、一人机で読書をしている時にボリュームを低く落として聞いたりしていても、とても心地よい気分になれるんですね。

カップリングCD

下にペタッと張ったCDは、私が好きなアルバム『ナイスン・テイスティ』のほかに、 3枚もカップリングされた、アルバム4枚分の2枚組セットなのです。

ずるいなぁ。

ジョン・ライトのCDは、店頭に新品で並んだのって一瞬だったので、後は、ディスクユニオンなどの中古CD屋をめぐって、ようやく少しずつ揃えていったのに、このCDは、私のように靴をすり減らさずに、一挙にジョン・ライトのオイシイところどりが出来るのだから。

ジョン・ライトは、あまり有名なピアニストではないかもしれませんし、同時代のピアニストでいえば、たとえばフィニアス・ニューボーンのような超強力な個性があるというわけでもないですし、ジョン・ライトが好きで好きでたまらないというジャズファンにもこれまで出会ったことがないのですが、でも、なんだかジワジワと染みてくる良さがたまらないピアニストなのです。

CD棚の隅っこにでも置いておき、思い出すたびに聴き返すと、ささやかな幸福感に浸れるのです。

記:2014/03/24

album data

SOUTH SIDE SOUL + NICE'N TASTY (Fresh Sound)
- John Wright

1.South Side Soul
2.47th and Calumet
3.La Salle Street After Hours
4.63rd and Cottage Groove
5.35th Street Blues
6.Sin Corner
7.Amen Corner
8.Things Are Getting Better
9.The Very Thought of You
10.Witchcraft
11.Pie Face
12.You Do It
13.Darn That Dream
14.The Wright Way
15.Yes I Know

John Wright (p)
Wendell Roberts (b)
Walter McCants (ds)

1960年

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