ジュラシック・クラシックス/ジェームス・カーター
「メグ」でぶっ飛んだ
これを吉祥寺のジャズ喫茶「メグ」で初めて聴いた時は腰を抜かした。
このアルバムが発売された直後のこと、たまたま吉祥寺へ行く機会があり、フラリとジャズ喫茶「メグ」に寄った。そのときに、店でかかったのが、ジェームズ・カーターの『ジュラシック・クラシックス』だった。
物凄く凶暴で、フリーキーで、荒々しい《A列車で行こう》が「メグ」のスピーカーから大音量で流れてきたときは、その迫力に驚いた。スピーカーが火を吹くという形容は、まさにこのことだと思った。
まさに自由奔放とはこのこと。
フリークトーンやスラップタンギングなどを交えながら、「ぶぎゃー!」と豪快に咆哮しまくるジェームズ・カーター。
凄い迫力。豪腕。やんちゃ。恐れ知らず。向こう見ず。そして、アイディアを即、音として出せるズバ抜けたテクニック。
本当にぶったまげた。
そして、一発で虜になった。
爽快ブロウ
しかし、不思議なことに、あれだけ吹きまくりの《A列車で行こう》を聴いても、ウルサイという感じは全くせず、むしろとても爽快な気分になれた。
これでもか、と吹きたい放題に吹きまくる彼のブロウは、たとえば同じ長尺ソロでも、コルトレーンの「内へ内へ」と向かってゆく、ある種の息苦しさとは対極の、開けっぴろげに「外へ外へ」と向かってゆく開放感を感じたからなのかもしれない。
迷いの無い彼のサックスは、突き抜けた感じがし、清々しい感じさえした。
女子からも好評
再び数日後に、吉祥寺へ行く機会があったので、その時に一緒だった女の子を試しに「メグ」に連れていった。
彼女は、生まれてこのかた、ジャズの「ジャ」の字も知らないといっても過言ではないほど、ジャズとは無縁の子だったのだが、私がリクエストした『ジュラシック・クラシックス』の《A列車で行こう》を聴いたら、もうノリまくり。
ジャズって、全然分からないし、難しいと思っていたけど、この曲は全然難しくないし、楽しいし、カッコイイと感激していた。
ジェームズ・カーターの突き抜けるように爽快なサックスは、初心者やマニアなどの垣根を越えて、聴衆を楽しい興奮状態にさせる力を持っているのだと思った。
弾けるピアノも良い
ピアノのクレイグ・ティーボーンも、破茶滅茶っぷりも爽快だ。
あるときはセシル・テイラー風だったり、またあるときはマッコイ・タイナー風だったりと、先人のスタイルを自在に行き来し、荒削りながらも威勢よくはっちゃけているところに好感が持てる。
ブッ飛んだカーターのテナーには、これぐらい元気なピアノじゃないと面白くない。
あのサックス相手に、大人しいピアノでは、演奏が白けてしまう。
テーマのメロディは無くとも、すぐに原曲が思い浮かぶ《アウト・オブ・ノーホェア》は、元気一杯で明るく爽やかな演奏。
《エピストロフィ》、《アスク・ミー・ナウ》と、モンクの曲を2曲も取り上げているのも嬉しい。
おいしい選曲
そういえば、このアルバムは選曲が良いことに気が付く。
つまり、《アウト・オブ・ノーホェア》を除けば、ジャズマンが作曲したナンバーで占められているし、そのどれもが、名曲ばかりなのだ。
《A列車》のビリー・ストレイホーンをはじめ、コルトレーンに、クリフォード・ブラウン、そしてロリンズの《オレオ》も取り上げられているので、彼らのファンにとっては、たまらない人選、選曲といえる。
ラストの素っ頓狂な音の跳躍を見せる《オレオ》が、お下劣一歩手前のユーモアがあって楽しい。
そういえば、ジャズ研時代に、サックス吹きが、この演奏のように、曲の譜割りはそのままで、音程を極端に上下させた《オレオ》を吹いて遊んいたのを思い出す。
こういう遊び心を保ちつつ、なおかつ、凄まじいほどのテクニックと、聴き手を爽快な気分にさせる、元気一杯なこのアルバムの頃のジェームス・カーターが私は大好きだ。
最近は、妙に落ち着いた感じがしないでもないが。
記:2002/07/23
album data
JURASSIC CLASSICS (Diw)
- James Carter
1.Take The "A" Train
2.Out Of Nowhere
3.Epistrophy
4.Ask Me Now
5.Equinox
6.Sandu
7.Oleo
James Carter (ts,as,ss)
Claig Taborn (p)
Jaribu Shahid (b)
Tani Tabbal (ds)
1994/04/16-17