効率が10倍アップする新・知的生産術/勝間和代
実用書オタクな私
私は、いわゆる実用書オタクみたいなところがあって、書店に行って、ちょっとでも気になるタイトルの本があると、中身も見ずにレジに持っていってしまいます。
なので、部屋の中は未読の本が山積み。
で、だいたい1日か2日のペースで1冊の本を読んでいるので、出かける際には、それこそ洋服を選ぶ感覚で、「今日はどれを持っていこうかなぁ」と、その日の気分で積んである本の中から選び、カバンの中に放りこみます。
しかし、優柔不断な性格なので、「あ、これも持っていこう、あれも読みたいなぁ」と1冊の本に絞れず、3~5冊ぐらいカバンの中に入れてしまうので、いつも私のカバンは重たい(涙)。
「いい本」あまりないんだよね
で、ビジネス本、実用本、自己啓発本は、これまでいろいろと読んできましたが、「おお、これはいい本だ!」と思える本は、だいたい20冊か30冊に1度出会えるか出会えないか、ですね。
ポイントは、あくまで「いい本」ね。
「役に立つ、立たない」、「使える、使えない」の基準ではあまり判断していません。
だって、どの本にも最低1つぐらいは役立つこと、使えるネタが書いてあるので、たった1つのことがらでも、千円ちょっとで買えたと思えば、それはそれで安いものだと思っているからです。
著者が何年もかけて編み出した技かもしれないし、著者がそこにたどりつくまでには失敗や投資の連続だったネタかもしれませんからね。
それを2~3時間の読書で、千円ちょっとで買えれば安いものだと思うからです。
一度読んでしまうと、「もう一回読み返してみよう」とか、うーん、なかなか綺麗な文章だなと思うことって、あんまりない。
ま、実用系の本に綺麗な文章を求めるのは筋違いなのかもしれませんが、それでも私は、しっかしりとした文章、綺麗な文章が好きです。
私は人から「面食い」だと言われますが、「文食い」でもあるのです(笑)。
で、久々に、綺麗、というか読みやすくて説得力のある文章の本に出会いました。
『効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法』です。
効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法
内容よりも「書かれ方」に興味がある
正直、書いてある内容で、私にとって新しい情報だ!と感じたことは全体の2~3割程度です。
でも、私は、あんまりそういうこと気にしないの。
だって、これだけ本を読んできていれば、そりゃぁ過去に読んだ内容と重複することだってたくさん出てくるだろうし、そんなにパンパン新しい情報が出てくることを期待しているわけでもありません。
よく、Amazonのブックレビューには、「それほど新しいことが書いてなかった。」「知っている内容ばかりだった」という理由で、低い評価をつける人がいますが、私はそういう基準での評価はしません。
知っている内容でも、「どのような語り口で語られているのか」のほうに関心があります。
たとえば、『「朝30分」を続けなさい!』という本の面白さは、挑発的な著者の筆致と、前著の『1日30分を続けなさい!』の内容を批判したレビュアーへのリベンジにあるのに、そこが面白いのに、そこしか面白いところないのに(笑)、そこを味わずに、「知っている内容ばかりだ」ってレビューが多いんですね、アマゾンのレビューを見ると。
でも、私の場合は違う。
いうなれば、《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》という曲を聴いて、なんだこの曲知ってらぁとは思わずに、その人が、どういうアプローチで《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》を演奏しているのか、のほうに興味がある。
……いちおう、心はジャズマンですから(笑)。
「パレートの法則」や「ジョン・マスローの欲求5段階説」、あるいは「紙に書けば願いは叶う」といった内容が書かれているビジネス本は多いですが、べつに、それはそれでいいの。
そこで、「またどこかで読んだ内容が書いてあるよ」とウンザリすることはないの。
過去に何度も読んだ内容で、「そんなこと知ってらぁ」な内容かもしれないけれども、多くの著者が同じ内容を書いているということは、それだけ信憑性のあることだと私は判断するし、それだけ大事だと受け止めている人が多いんだな、と判断する。
で、自分が知っている内容を、じゃあこの人はどういう言葉で解説してくれるのだろう、ということに興味がわきます。
引用→アレンジ的なサクサクっとした内容で書く人から、自分自身の言葉で語る人まで。
そんなに文字数費やさなくてもいいのにという解説から、図表付きで解説したものまで。
ほんと、本によって同じ情報でも、アウトプットの仕方は千差万別です。
そこが、私が面白いと思うポイントの1つです。
少ない出費で大きなリターンを欲張り過ぎてない?
せっかく本に投資をしたのだから、相応のリターンを得られないのは損だ!と考えるのはまっとうだと思います。
だから、既知の情報ばかりで、未知の情報が少ないと「金返せ!」と思う読者の心理もわからないでもありません。
でもね、ホンネを言っちゃえばちょっとケチくさい考えだとも思うんだけどさ……(笑)。
だから私は、本だけから有益な情報を得ようとは思っていないし、たかだか千円や2千円程度の出費で劇的に仕事や生活や人生が変わるとも思っていません。
劇的に影響を受けることも、そりゃあるけれども、それは、100冊に1冊ぐらいの割合かな?
確率低いことに、それほど過度な期待していないってことです。
そういった意味では、本に求める期待度は普通の人より低いと思います。
だから、多読してるのかもしれないね。
それに、私の経験上、有益な情報や、自分にとって役に立つ話は、本ではなくほとんどの場合、人が運んでくるんですよ。
読書も大事だけれども、それ以上に人づきあいのほうが大事だと私は思っているのね。
だって、私自身ビジネス雑誌の編集者でしたから(笑)、そのへんの内部事情はよくわかっていましてですね、雑誌なんで主にインタビュー中心ではありましたが、著者が強気になって大言壮語を言う瞬間ってあるんですが、編集者としては、そいうところをクローズアップしたいんですが、インタビュー後のゲラチェックで、いちばんオイシイところを「ちょっと言い過ぎました」みたいな感じで赤を入れてくる人多いんですよ(笑)。
それと、こちらも事実確認とかしますから、あまりに大見栄きられすぎたところは修正しちゃいますし。
それに、インタビューが終わると「これは載せないで欲しいんですけど、オフレコでここだけの話……」みたいなことを話し出す方もいらして、じつは、そのオフレコの話のほうが面白かったりするんですよ(笑)。
というか、オフレコの話こそ読者に伝えたいと思わせる核心部がオフレコなんですよね。
そうすると、こちらが編集したり校正したりして世に出る「役立つ情報」って、じつは、一番搾りではない、三番絞りの搾りカスだったりする(笑)。
たとえばですよ?
本当にたとえばなんですが(特定の誰々さんを指しているいるわけでは絶対にない、あくまでたとえばの話なんだよ~ん)、金持ちになる方法を書いている金持ち著者にいろいろと金持ちになる方法をインタビューするじゃないですか?
で、色々と役に立つ(役に立ちそうな)話をいただくんですが、でもね、インタビューの後で「これはオフレコなんですけど、じつは私、収入の大半は(アムウェイのような)ネットワークビジネスで儲けてるんですよね。あっ、これは絶対に書かないでくださいね」なんて言われたらどうです?
書かないでくださいと言われた以上は誌面には掲載できませんよね?
ですので、オフレコじゃない部分でいただいた話を掲載するしかないわけなのですが、でも「金持ちになる方法」のもっとも核心に迫る話は読者には届かないわけです。
もちろん、読者にとって役に立つ情報もインタビュー中にはあるのかもしれませんが、読者がもっとも知りたい肝心な情報は公開されず、「タメになりそうな話」だけが世の中に公開されることになる。
そういうこともあったりするので、だから私の場合は、劇的にスゴいビジネス情報なんて、めったなことでは、一般に流通している千数百円程度の書籍では得られないんと思っているんですね。
だから、ビジネス書からは「学ぶぞ!」というモチベーションは一般の読者よりはかなり低いと思う。
そのぶん、ヘンなところを楽しんでしまうんですね。
章立てとか、文体やレイアウトや改行のセンスのほうに目がいってしまったり、「この内容をこの人はどのような語り口で演奏してくれるんだろう(語ってくれるんだろう)」というほうに興味の矛先が向くんですよ。
そういった中では、勝間氏の新刊は非常に楽しませてもらえましたね。
さらっと読めるから良い
カラーページを盛り込む工夫や、ところどころにある意味ありげなシンプルな記号など、デザイナー、装丁家の遊び心もピリリと効いている。
さらに、特筆すべきは、この方は、文章がとても綺麗。文章の骨格が非常にしっかりしている。
とても読みやすく、この流れるような文章は、一見、ものすごく普通っぽいんだけれども、大事なことを過不足なく、読者に抵抗感を与えずに、さらっと読ませてしまう力量は素晴らしい。
とてもクレバーな方だと思います。
ピアノでいえば、ハンク・ジョーンズのピアノを聴いているようです。(ただし、がんばりすぎているグレート・ジャズ・ピアノのハンク・ジョーンズのピアノとかじゃなくてね)
『ティップトォー・タップ・ダンス』や、『サムシン・エルス』のサイドマンを務めているときのピアノなんか、まさにピッタリ。
本書を読めばわかるけれども、著者は報告の仕方、レポートの内容などに関しては、マッキンゼー時代にそうとう鍛えられたようですね。
上司からは、「あなたの会話は散文的」、「素人の会話」などと言われたりと、そうとうキツいことを言われてきたようですが、その経験がこの本の文章の糧になっていると思います。
とくに、これはあくまで私の経験からの感想なのですが、実用本、自己啓発本、ビジネス本に関しては、男性よりも女性のほうが文章が稚拙なケースが多いように感じます。
とくに、話し言葉の延長線的な文章だったり、
理解のある先輩を演じている風のタメ口語り口調だったり(それで癒され、ファンになるオトコも多いんだろうけど)、小中学生の作文程度の筆力を、編集者や校閲&校正者がなんとか読めるような文章に修正したであろう苦労の跡が伺える文章のものだったりと。
ま、そういう本は、書くことが本業ではない人たちが著者な場合が多いので、それはそれで仕方のないことだとは思いますが、表紙やオビに自分の写真を使っている本の著者ほどその傾向が強いように感じます(あくまで私の経験からだけど)。
内容の薄さを(もし著者が美人だったら)顔でカバーしようとしているのかもしれないね(笑)。
個人的な経験則を書きますと、表紙の顔写真の露出度と、書いてある内容は反比例することが多いので、これはみなさん、ビジネス書、実用書を買うときの一つお判断のバロメーターにするとよいかもしれません。
だって、神田昌典さん、本田健さん、本田直之さんのように、面白い内容、きちんとした語り口を持っているようなベストセラー著者の本って、表紙に彼らの写真使われてませんよね?
オトコだから顔出してもしょーがねぇよってこともあるのかもしれないけれども、内容がいいから、べつに顔写真を出す必要ないんですよ。
著者の顔出せばベストセラーになるってわけでもないし。
ま、勝間さんの本、とにかく読んでみてください。
あなたにとって役に立つ事柄、というよりも発想がたくさんちりばめられていると思いますよ。
そして、なにより、普通っぽいけれども、大事な情報を過不足なくキチッと伝える文章の巧さも味わってみてください。
こういう文章書ける人の内容・情報は信頼できます。
なぜなら、単なる経験則だけではなく「知の骨格」がしっかりしているから。
たとえ知っている内容だとしても、説得力が違うので、この人がこのように紹介しているのなら「やってみようかな」と思える内容は多いと思います。
で、アマゾンのレビューによくある、「私はサラリーマン。しかし、著者はサラリーマンじゃない。職種が違うんだから、自分に実践できないことばかり書くな!」みたいな甘ったれたことは考えないように(笑)。
自分が吸収できるところだけ吸収すればいいの。
自分が学べるところだけ学べばいいの。
べつに、特定の個人に向けたオーダーメイドの本じゃないんだから。だから、本は安いの。
自分だけにフィットしたアドバイスや情報が欲しければ、もっとお金を払ってコーチングを受けるなり、セミナーに出席して積極的に質問をするなりで得るしかないのよ。
それに、たとえ自分にとっては使えない情報でも、直輸入じゃなくて、アレンジ効かないかな?ぐらいの発想は持とうよね。
いみじくも、勝間さん、この本で書いてます。
多くの人は、お金儲けそのものや、お金が直接儲けられそうな情報にはガツガツと喰いつくのですが、どうやってお金儲けにつながるような情報を効率的に手に入れるかということには比較的淡泊です。しかも、情報同士をつなげることについては、さらに淡泊です。
たった1冊の本から、1から10まで手取り足取り自分にジャストフィットに有用な情報を得ようって魂胆からしてそもそも甘えなんですよ。過大な期待をかけすぎなんです。ケチなおばちゃんメンタリティなんです。
というか、リテラシー低すぎです(笑)。
このことも、勝間さん書いてるよね、
引用ばっかりしてもアレなんで、買った人は、P94、95とかP169-170あたりに書いてあるから読んでみ。
私はこれまで、渡辺昇一の『知的生活の方法』、梅禎忠男の『知的生産の技術』や、立花隆『「知」のソフトウェア』など、いわゆる「知」のつく定番本は、いろいいろ読んではきましたが、勝間さんの「新・知的生産術」が、これから「知」のつく本を読もうと思っている読者にとっては、もっとも、現代の時代に即した、しなやかでスマートな「知」の本なので、一番おススメしたい。
あと全然関係ないけれども、表紙や各章の地に敷いてある◎が、この本のイメージの基調となっていますが、だからなのだろうか、私はこの本を読んでいる間中、Coccoが聴きたくなって仕方なく、読書中の半分は、Coccoの『裏ベスト』ばかりを聴いてました(笑)。
よくみると、全然違う◎なんだけどね……。
でも、たまに聴くCoccoもいいもんですね。
嗚呼、《樹海の糸》……(笑)。
記:2008/01/25