ラスト・コンサート/モダン・ジャズ・カルテット

   

素晴らしき金太郎飴

このアルバムをひと言でいうならば、金太郎飴。

「似たりよったり」という安っぽいイメージを抱かれる可能性があるので、急いで補足すると、どこを切っても、どの曲から再生してもクオリティの高い演奏を楽しめる、きわめて上質な金太郎飴だ。

いや、飴というよりは、ホテルの立食パーティに並ぶ料理の味わいといったほうが良いかもしれない。

ビュッフェスタイルで会場に並ぶたくさんの種類の料理は、どれもが上質な素材で作りこまれたホテルの味で、どれもが旨い。

これらを、来客は好きなものをチョイスして小皿に盛って楽しむ。

全種類を平らげる必要はないし、自分のお腹の空き具合と気分、好み、周囲の空気によってチョイスすれば良い。

1974年の11月にエイヴリー・フィッシャー・ホールで行われたモダン・ジャズ・カルテットの解散コンサート。

さすがに20年以上活動を共にしてきた4人のメンバーの演奏なだけあって、しかも最後の晴れ舞台での演奏でもあるので、内容は悪かろうはずがない。

長年の活動の総決算とでもいうべき選曲と演奏だが、必要以上の気負いは感じられず、リラクゼーションとエキサイティングの狭間を交互に行き来するバランスの良さ。

スタジオ録音の演奏よりもジャムセッション色が強いので、どの曲もアルバムのナンバーよりも3割増しの勢いがある。

しかし、だからといって観客受けするような大袈裟なプレイを繰り出すことは潔しとせず、最後までビシッと抑制のとれたグループ表現を守ろうという意思も働いているところが、このグループらしいところ。

だからこそ、聴きやすいし、飽きないのだ。

MJQのどの作品にも感じられなかった溢れんばかりの勢いがある。

面白いのは、アンコールで演奏される《バグズ・グルーヴ》だろう。

コンサートもいよいよ佳境。

観客のノリも最高潮を迎えんとしている空気。

パーシー・ヒースのベースソロを経て、演奏がテーマに戻ると盛大な拍手、手拍子が沸き起こる。

しかし、この手拍子が、まったくリズムに合っていないんだよね(笑)。

「2・4」でも「1・3」でもない、妙なタイミングで叩かれる手拍子。これをマトモに聞いて演奏すると確実にリズムがズレてしまうだろう。

ところが、MJQは、手拍子なんて聴こえませんとばかりに、淡々と演奏を進める。ジャストなリズムの演奏を崩さない。

この一糸乱れぬアンサンブルと、乱れまくりの手拍子のギャップが面白い。

次第にMJQの演奏と、観客の手拍子が一致してくるが、またズレはじめたところで演奏終了。

万雷の拍手。

このズレがかえって微笑ましく、モダン・ジャズ・カルテットは、ほんとうに人々から愛されていたジャズ・コンボだったんだな~と感じさせてくれるトラックがラストの《バグズ・グルーヴ》なのだ。

収録曲の多い2枚組のディスクだが、だからといって2枚のディスクを一気に聴き通す必要はない。

まずはディスク1の《朝日のように爽やかに》や、ディスク2の《バグズ・グルーヴ》あたりをチョイスして聴き始めれば一気にこのアルバムの虜になるだろう。

あとは、その日の気分で選曲して少しずつ楽しんでゆけば良い。

長い時間をかけてじっくりとつきあえるアルバムなのだから。

記:2009/12/12

album data

THE LAST CONCERT (Atlantic)
- Modern Jazz Quartet

disk 1
1.Softly, As In a Morning Sunrise
2.Cylinder
3.Summertime
4.Really True Blues
5.What's New?
6.Blues in A Minor
7.Confirmation
8.'Round Midnight
9.Night In Tunisia
10.Tears from the Children
11.Blues in H (B)
12.England's Carol

disk 2
1.Golden Striker(From No Sun in Venice)
2.One Never Knows(From No Sun in Venice)
3.Trav'lin'
4.Skating In Central Park
5.Legendary Profile
6.Concierto de Aranjuez
7.Jasmine Tree
8.In Memoriam
9.Django
10.Bag's Groove

John Lewis (p)
Milt Jackson (vib)
Percy Heath (b)
Connie Kay (ds)

1974/11/25

 - ジャズ