フロム・レフト・トゥ・ライト/ビル・エヴァンス

   


From Left To Right

エレピを弾くエヴァンス

エレピを弾くビル・エヴァンスも悪くないと思います。

硬いピアノの音とは違った、アタックの弱いやわらかなフェンダーローズの音色でしか表現できない世界も、たしかにあるんですね。

「新しい楽器が登場した。いっちょ使ってみるか!」

エヴァンスにとっては、それぐらいの気軽な感覚だったのかもしれないけど、きっと凝り性のエヴァンスのこと、だんだんエレピをいじるのが面白くなってきたのではないかと思うのです。

それが証拠に、下に掲載した録音日を見ればわかるとおり、この1枚のアルバムを作るために、何回もスタジオに入って録音を繰り返している。

エヴァンスにとっては新しい楽器のフェンダー・ローズ、多重録音をしているということもあるのかもしれないけど、色々と音を出しながら使い方を模索していたのではないでしょうか。

エヴァンスのキャリアの中では異色アルバムとして位置づけられている『フロム・レフト・トゥ・ライト』ですが、フェンダーローズの楽器特性を理解し、巧みにエヴァンスならではの世界を構築している名アルバムだと思うのです。

とはいえ、このアルバム以降、これと同様の手法のアルバムをエヴァンスが制作しなかったのは、「やっぱりアコースティックピアノ一本で行こう」と思ったのか、 それとも、せっかく苦労して作ったわりには、発売当時はまったく評価されなかったからなのか。あるいはその両方なのか。それはエヴァンスのみぞ知る、ですね。

「ジャズは〇〇ではならない!」(←〇〇には、アコースティックとか、4ビートとか、一発録音とか、まあ、そういった単語を適当に入れてください)

そういった、頭の固いコダワリを持った人には受け入れがたいアルバムかもしれませんが、そうしたコダワリがなく、「良い音楽は良い」と広く受け入れられるだけのキャパがある人にとっては、特にジャズファンではなくとも、おしゃれで心地よいサウンドとして響くのではないでしょうか。

記:2014/06/14

album data

FROM LEFT TO RIGHT (MGM)
- Bill Evans

1. What Are You Doing The Rest Of Your Life?
2. I'm All Smiles
3. Why Did I Choose You?
4. Soiree
5. The Dolphin - Before
6. The Dolphin - After
7. Lullaby For Helene
8. Like Someone In Love
9. Children's Play Song
10. What Are You Doing The Rest Of Your Life?
11. Why Did I Choose You?
12. Soiree
13. Lullaby For Helene

Bill Evans (el-p,p)
Eddie Gomez (b)
Marty Morell (ds)
Sam Brown (g)
Michael Leonard (conductor, arranger)
Unidentified (brass,woodwinds and strings)

1969/10/14,21,11/13
1970/3/26,28 4/23,4/29,5/1

 - ジャズ