バド!ジ・アメイジング・バド・パウエル vol.3/バド・パウエル

   

緊張と弛緩の絶妙なバランス

あまり聴く頻度の高いアルバムとはいえないが、たまに聴くと不思議な緊張感とリラクゼーションの入り混じった感触を覚えるアルバムだ。

穏やかでいながら、ときおり(本当に時折)ギラリと一瞬だけ見え隠れする殺気が気になって気になって仕方がない。

吉祥寺のジャズ喫茶「メグ」の店主・寺島靖国さんが大好きだという《ブルー・パール》は、たしかに魅惑的なテーマのメロディを持つ曲だが(大西順子の《B ラッシュ》というソックリな曲も寺島さんはお好きなようだ)、演奏自体は、昔は無敵を誇ったボクサーの凋落ぶりを見るようで、なんだか少し痛々しい。

この曲は、テーマが32小節。

通常のAABA形式ではなく、16小節で完結するメロディを2回繰り返す構造となっている。

16小節のうち、前半8小節はコール・ポーター作曲の《帰ってくれれば嬉しいわ》のコード進行の拝借で、続く4小節は、《ミスターP.C.》に代表される「Cマイナーのブルース」のラスト4小節の部分。

つまり、落とし所をCmに定めた一連のコードの流れの4小節。

この4小節を2回繰り返し(8小節)、《帰ってくれれば嬉しいわ》の前半8小節と合体させることによって一つのテーマとしている。

よく聞くと、後半8小節の繰り返しがクドく感じることもあるが、この曲のテーマ自体が、全音符や2分音符の和音主体で奏でられる、比較的あっさりとしたメロディなので、コテコテにクドく感じるほどではない。

むしろ、急ごしらえ感の強いコードの流れを、そうは感じさせない演奏で「聴かせる」内容に昇華させているところは、さすがパウエルというべきか。

絶頂期のパウエルのピアノと比較すれば、鋭いキレが無くなり、スピード感もなくなってはいる。

しかし、そのぶん無駄な動きをセーブして体力を温存しながら音を繰り出す新たなスタイル前面に出てきており、そこがまた、ジェットコースター的なピアノで聴き手にスリルを味あわせることがなくなったぶん、じっくり深く聴き入らせるという新たな魅力が表れ始めているのがこの時期のパウエルのピアノだといえる。

したがって、現在の自分自身の“性能”を知りながらのピアノ奏法なので、演奏自体にはまとまりがあり、後年の不調期の演奏と比べるとまとまりがある。

ほかのナンバーも同様で、個人的には普通にスローテンポで弾かれるブルース《サム・ソウル》が味わい深いと感じる。

リラックスしていいムードだな、なんて思いつつも、もしかしたら、一瞬だけバドならではのギラリと光る瞬間があらわれるんじゃないかとハラハラドキドキ期待しつつも、ついぞ現れない肩透かし感がたまらない。

もちろん、何度も聴いているので展開はわかっているのだけれども、「ギラリ」の予兆が随所に感じられるので、わかっちゃいるけど、リラックスムードの中、気の抜けないものがある。

カーティス・フラーが3曲参加

オマケ的にアルバム後半にくっついている、カーティス・フラー参加の《ムース・ザ・ムーチェ》。バドは悪くないが、カーティス・フラーのトロンボーンがいまいちホグれていない。

緊張しているのか、テーマしょっぱなの3音目からミストーンを出しているし、アドリブも固い。

「そこがいいのだよ」という人もいるが、私はカーティス・フラー参加のテイクは、「こんな組み合わせで録音してみましたよ」な、オマケ以上のものには感じられない。

トロンボーンのマイルドな音色ゆえ、アルバム後半の気分転換にはなるのだが。

記:2009/03/21

album data

The Amazing Bud Powell vol.3 (Blue Note)
- Bud Powell

1.Some Soul
2.Blue Pearl
3.Blue Pearl (alternate take)
4.Frantic Fancies
5.Bud On Bach
6.Keepin' In The Groove
7.Idaho
8.Don't Blame Me
9.Moose The Mooche

Bud Powell (p)
Paul Chambers (b)
Art Taylor (ds)
Curtis Fuller (tb) #7-9

1957/08/03

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