チェイシン・ザ・バード/バリー・ハリス

      2021/02/03

パウエル派筆頭のピアニストの非パウエル的側面

パウエル派のピアニストは数多いが、中でも筆頭格に位置するピアニストは、なんといっても、バリー・ハリスだろう。

モダン・ジャズ・ピアノの開祖、バド・パウエルが切り開いた、音楽上の語法、手法は数多くのピアニストに継承されたが、肝心なパウエルが発する音の肌触り、質感、たたずまいには、誰もが到達しえていないことも確か。

しかし、「今の瞬間って、結構パウエルだよね」と、こちらをハッとさせる、ギラリとした一瞬を垣間見せることの多いピアニストは、なんといってもバリー・ハリスや、初期のケニー・ドリューだろう。

ごくごく初期の秋吉敏子(『アメイジング・トシコ・アキヨシ』)のプレイにもパウエル的な張り詰めた緊張感が生み出されている瞬間はあるが、後年、オリジナリティを確立してゆくにつれ、次第にパウエル的な音の肌触りは失せていった。

しかし、ハリスの場合は、よほどパウエルに心酔していたのだろう、たとえば1990年代の『イン・スペイン』など、ダークもダーク。

パウエル的な凄みが横溢している。

年齢とともに、自分のオリジナリティを形成してゆくのではなく、むしろ、年をとればとるほど、パウエルチックなニュアンスに近づいているのが凄い。

この、ボブ・クランショウがベース、クリフォード・ジャーヴィスがドラムのトリオ演奏は、パウエル的な凄みのある瞬間は比較的少ない。

しかし、初々しい溌剌さと勢いに溢れたピアノは、ことさらパウエル派というキーワードを思い浮かべなくとも、これはこれでひとつの独立したピアノトリオとして楽しめる。

多少、小粒な印象は否めないが、パウエルのようにゴツゴツとした無骨で、こちらの呼吸を詰まらせる息遣いがないぶん、すっきり、あっさりと聴ける内容でもある。

《インディアナ》といえば、圧倒的な演奏で世の同業者やジャズ好きを驚かせつづけるパウエルの代表的名演を思い浮かべる人も多いと思うが、この、ある意味シンボリックなパウエル名演曲にトライしている姿勢は評価したい。

そして、この両者の演奏を聴き比べることによって、バド・パウエルとバリー・ハリスという二人のピアニストの資質が浮き彫りになるのだ。

ハリスの演奏もいいところまでは言っているものの、やはり、サイドマンとの協調性、アンサンブルを大事に考えていることがわかる。

一方、パウエルの場合は、さながら暴走機関車。

ドラムよ、ベースよ、ついてこれるものならついてこい!といった勢い。
この演奏に臨む微妙な違いが、大きな差として音になって現れている。

『美味しんぼ』や『バンビ~ノ!』などをはじめとした料理漫画の常套句に、「料理には人間が出る」というフレーズがあるが、ジャズも人間性がモロに出てしまう音楽なのだ。

記:2009/03/25

album data

CHASIN' THE BIRD (Riverside)
- Barry Harris

1.Chasin' The Bird
2.The Breeze And I
3.Around The Corner
4.Just As Though You Were Here
5.Indiana
6.Stay Right With It
7.'Round Midnight
8.Bish,Bash,Bosh
9.The Way You Look Tonight

Barry Harris (p)
Bob Cranshaw (b)
Clifford Jarvis (ds)

1962/05/31 & 08/23

 - ジャズ