カム・アウェイ・ウィズ・ミー/ノラ・ジョーンズ

      2022/11/06

心地よい音空間

第45回グラミー賞において、主要4部門を含む計8部門を完全制覇したアルバム『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』。

歌姫は、インドのラビ・シャンカールの娘、ノラ・ジョーンズだ。

しっとりと、淡々した歌唱だが、不思議と、どの曲もこちらの心の奥深くにじんわりと染みてくる。

テンションをクールに抑制したピアノもヴォーカルも、肩の力が抜けた自然体とでもいうべき歌唱&演奏で、終始心地よい音空間が続く。

ゆったりとした和みの世界でありながらも、そこには一本の強い芯が通っており、単なる「お休みミュージック」や「和みのBGM」として、部屋の空気の一部として放出するには、あまりに勿体なさすぎる。

もちろん、そのような聴き方も「アリ」なのだろうが、一曲一曲がじっくりと鑑賞するに値する奥行きがあるのだ。

アルバム全体にブルーなムードが一貫して続くためか、それぞれの曲に特色があるにもかかわらず、ひとまとまりの組曲として最初から最後まで聴き通せてしまう統一感もある。

ノラの歌声には耳を話さない「磁石」がある?

しかし、不思議だ。

ノラの声の磁力はいったいなんなのだろう。

まぎれもなくノラ・ジョーンズは、“立つ”声の持ち主だ。

22歳の女性の歌唱とは思えないほどの落ち着きとしなやかさがある。

強引にこちらの耳をつかむような声質でも歌唱でもない。

静かにこちらの気持ちを包み、気がつくといつのまにか彼女の音世界の中心部にいるという寸法。

いつのまにか耳が引き寄せられているという、まるで磁石のような声、歌唱なのだ。

代表曲《ドント・ノウ・ホワイ》もいいが、個人的には部屋の淀んだ空気を一掃するかのようなリフレッシュ感のある《フィーリン・ザ・セイム・ウェイ》や、イギリス映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ミッドランズ(邦題:家族のかたち)』の挿入歌に使用された《シュート・ザ・ムーン》もオススメ。

記:2003/06/09

加筆

このアルバムが発売されたのが2002年だから、もう13年の歳月が流れていることに気付いた。

時間が経つのは早い!

2002年。

「9・11同時多発テロ」の生々しい記憶を引きずった鉛色だった世の中の雰囲気に、優しくやわらかく風穴を開けたのが、ノラの歌声だったのかもしれない。

そして、彼女はいっきにスターダムにのし上がった。

しかし、そのような「背景」を抜きにして、今、改めて聴き返すと、歌も演奏も純粋に音楽として優れている作品だということがわかる。

その後もノラは優れた作品を発表し続けているが、やはり、このデビューアルバムが放つオーラは別格だと感じている。

●シンガーソングライターの上野まなさんと語り合ったノラ・ジョーンズの声の魅力について。

記:2015/08/30

album data

COME AWAY WITH ME (Blue Note)
- Norah Jones

1.Don't Know Why
2.Seven Years
3.Cold Cold Heart
4.Feelin' the Same Way
5.Come Away With Me
6.Shoot the Moon
7.Turn Me On
8.Lonestar
9.I've Got to See You Again
10.Painter Song
11.One Flight Down
12.Nightingale
13.The Long Day Is Over
14.The Nearness of You

Norah Jones(vo,p)
Sam Yahel (org)
Rob Burger (accordion)
Jenny Scheinman (vln)
Jesse Harris (g,el-g)
Kevin Breit (g)
Adam Rogers (g)
Adam Levy (el-g)
Lee Alexander (b)
Dan Rieser (ds)
Kenny Wollesen (ds)
Brian Blade (ds,per)
Arif Mardin (string arrangement)

2002年

追記

《シュート・ザ・ムーン》のように午後に聴くと爽やかな気分になれるようなナンバーもあるけれど、基本、ノラ・ジョーンズの『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』は、深夜にゆったりとした気分で聴くと心地よいですね。

CDはワインではないから熟成されるわけではないけれども、発売当時に聴いたときの新鮮さが、今聴くと、熟成されたコクのような味わいに変化しているという不思議さ。

自分の耳が年とっただけなのかな?

記:2014/05/25

 - ジャズ