ゴー/デクスター・ゴードン

      2021/01/23

堂々たるゴードンのブロウ

重くて哀愁たっぷりの《チーズ・ケーキ》(“チーズケーク”と発音する人のほうが周囲には多いが)は、デックス(デクスター・ゴードンの愛称)だからこそ出せる味。

この音色、あのノリ、この風格。

このアルバム『ゴー!』のトレードマークとでも言うべき《チーズ・ケーキ》は、ひときわアルバムの中でも映える名演だ。

この重さ、この哀愁はどうだ。

余計なことは何もしないかわりに、ひたすら演奏に安定感と重さを付加している堅実なブッチ・ウォレンのベースと、ビリー・ヒギンズのドラム。

そして、ピアノのソニー・クラークの適度な粘りとダークさ加減も、デックスのテナーに色を添えている。

たっぷりと息を吹き込んだ太い音色のサックスをゆうゆうと奏でる、ごっつく優しい大男、デクスター・ゴードンを支えるにはピッタリのリズムセクションだ。

重たいくせに、躍動感も失わない。

したたかなバネのあるリズムセクションを大音量で浴びるだけでも、ジャズ的幸せを味わえる。

特にジャズ・ボッサと4ビートのドッシリとした躍動感に漲る《ラヴ・フォー・セール》などは、ハードバップを愛してやまないマニアにとっては昇天モノの演奏だ。

欲を言えば、もう少し遅いテンポで演奏されれば、さらに重量感のある演奏になったのにな、と思うのは私だけ? いや、かえって重過ぎて肩が凝ってしまうか。

テンポといえば、デックスのテナーサックスの演奏の特徴のひとつに「レイド・バック奏法」というものがある。

本人はどれだけ意識しているのかはわからないが、微妙にリズムに対して遅れてサックスを吹いている。

この本当に些細で微妙なズレがジャズ的快感を呼び覚ますのだ。

彼のテナーに耳を集中させた後、バックのリズムに耳をフォーカスさせると、悠々としたテナーのフレーズに対し、妙にバックのリズムがせわしなく感じてしまうことがあるが、これこそデックスならではの妙味。

スピードと重さの両方をもたらし、少人数の編成でありながらも、演奏に立体感と奥行くをもたらしているのだ。

デックスのアルバムは、どのアルバムも何回聴いても飽きない秘密は、こんなところにも隠されているのではないだろうか。

いずれにしても、デクスター・ゴードンを堂々と代表する一枚であることは間違いない。

ジャズ喫茶が似合いすぎる名盤でもある。

記:2009/02/19

album data

GO (Blue Note)
- Dexter Gordon

1.Cheese Cake
2.I Guess I'll Hang My Tears Out to Dry
3.Second Balcony Jump
4.Love for Sale
5.Where Are You?
6.Three O'Clock in the Morning

Dexter Gordon (ts)
Sonny Clark (p)
Butch Warren (b)
Billy Higgins (ds)

1962/08/27

 - ジャズ