ホット・ハウス/バド・パウエル
グリフィン好きも必聴
1964年の7月末、バド・パウエルはヨーロッパで最後のレコーディングを行った。その時の演奏内容はアルバム『ブルース・フォー・ブッフェモン』として発表されている。
このレコーディングを最後に、2ヶ月後の9月にパウエルは古巣のニューヨークに還った。
しかし、その前月の8月の上旬、かねてからパウエルに心酔し、パウエルと同居し、パウエルの面倒をみていた、商業デザイナーのフランシス・ポウドラと彼の奥さんの誘いで、パウエルはノルマンディの貸し別荘で過ごしている。
しばしば別荘の庭にピアノを出して一緒にやってきたベーシストやドラマーとセッションを楽しんでいたパウエル。
たまたま同地にやってきたジョニー・グリフィンも演奏に参加し、仲間うちで楽しくセッション・パーティを行っていたそうだが、このときに録音された演奏を収録したアルバムが『ホット・ハウス』だ。
この作品は、パウエルファンのみならず、ジョニー・グリフィンファンも必携のアルバムだと思う。
プライベート録音盤ゆえ音質はあまり良くないかもしれないが、それを補ってあまりあるほどグリフィンのテナーが良い。
メロディアス。
勢いモリモリ。
オフィシャルなレコーディングではなく、パーティの延長のノリでの演奏だったことも、肩の力がほぐれて良い結果につながったのかもしれない。
グリフィンの演奏は、どの作品も勢いと推進力に満ちたものばかりだが、プライベートなセッションにおいても彼はまったく手を抜くどころか、いやむしろプライベートだからこそ細かなことなどお構いなしにグイグイと力強くテナーサックスに息を吹き込んでいたのかもしれない。
いっぽうパウエルはというと、唸り声のボリュームが高い(笑)。
もちろん演奏のほうは、1ヶ月後にニューヨークで録音した『リターン・オブ・バド・パウエル』のような指のもつれや、フレーズの息切れのようなものは感じさせず、『ゴールデン・サークル』でのライブ盤を彷彿させるような勢いを感じさせる。
グリフィンに触発されたのかもしれない。やはり、トリオの演奏よりもグリフィンが参加している演奏のほうが圧倒的に素晴らしく感じる。
もちろん全盛期の演奏ほど閃きやスピード感は感じられないが、グリフィンがフロントに加わるだけで、パウエルのピアノには勢いが宿るので、そのあたり、一流の表現者同士の触発作用を「音」で感じ取れることが面白い。
少し前に録音された『ブルース・フォー・ブッフェモン』は、ほのぼのとしたテイストの演奏が多いが、こちらの避暑地でのプライベートセッションの演奏はもう少しシリアスなテイストに感じる。
本来ならばリラックスすべき場所であるにもかかわらず、またギャラが発生する演奏でないにもかかわらず、熱血ジャズマン、グリフィンの参加で、ついつい本気が出てしまうあたりが根っからのジャズマンらしくて良いなと思う。
メリット、デメリット、コストパフォーマンス、周囲の状況など関係なし。地方公演で迫真の演奏を繰り広げたアート・ペッパーがまさしくその典型だが、ノッてきたら本気を出す、いや出さずにはいられないという性(さが)が、一流のジャズマンの証なのだろう。
そのように生きたくても、なかなかそういうわけにもいかない我々凡人がジャズマンに憧れる理由は、そのようなところにあるのかもしれない。
記:2013/06/21
album data
HOT HOUSE (Black Lion)
- Bud Powell
1.Straight no chaser
2.Salt Peanuts
3.Move
4.Bean and the boys
5.Wee
6.52nd Street
7.Hot house
Bud Powell (p)
Johnny Griffin (ts)
Guy Hayat (b)
Jacques Gervais (ds)
1964/8月