孤軍/秋吉敏子=ルー・タバキン ビッグバンド

   

ドラムも聴き応えあり!

人それぞれツボは違うのだろうけど、私の場合、ビッグバンド鑑賞の醍醐味は、ドラムにあると思っている。

特に生でビッグバンドを聴く場合は、ドラムを中心に見てしまう傾向がある。

まず、ドラムは見ているだけで楽しいし、ビッグバンドのサウンドの要は、もちろんホーンのアレンジや、複数のホーンから放たれる圧倒的な音の塊を浴びた時の心地よさはもちろんあるのだけれど、これらの音のパワーの源となるエンジンのようなものは、ドラムなんじゃないかと考えているのだ。

過去の名だたるビッグバンドには、スターともいうべきドラマーが数多く存在した。

ベニー・グッドマン楽団のジーン・クルーパ、スウィンギン・ニュー・ビッグ・バンドのバディ・リッチ、それに、カウント・ベイシー楽団のソニー・ペインなど。

では、私に「ビッグバンドはドラムがおいしい」ということに気付かせてくれたのは、ジーン・クルーパやバディ・リッチなのかというと、そうではなく、なにを隠そうわが国誇るジャズウーマン・秋吉(穐吉)敏子のアルバム、『孤軍』だったのだ。

私はどちらかというとジャズの鑑賞はビッグバンド形式のものよりも、少人数のコンボ形式のものが多い。

9対1、いや、それ以上の比率でコンボ編成のカルテットやクインテット、それにピアノトリオなどの編成のものを聴くのが、昔からのスタイルだ。

少なくとも、毎日ビッグバンドのジャズを聴く生活はしていない。

しかも、よく聴くビッグバンドは、ギル・エヴァンスのオーケストラのようにアレンジや楽器の編成が凝っているものを好んで聴く傾向があり、どちらかというと躍動感や音塊の迫力といったプリミティヴな要素よりも、知的興奮をビッグ・バンドに求めているような傾向があるのかもしれない。

しかし、時には後期コルトレーン・カルテット(インパルス時代)の荒れ狂うエルヴィン・ジョーンズのドラミングに興奮することと近い感覚でビッグバンドを聞きたくなることもある。

そういうときに真っ先に手が伸びるのが、秋吉(穐吉)敏子の『孤軍』なのだ。

『孤軍』。

なんともカッコいいタイトルではないか。

小野田少尉のエピソードにインスパイアされたナンバーではあるが、単身アメリカにわたり、異国の地で、日本人にとっては異国の文化であるジャズを、いち日本人が表現していく苦悩と葛藤を味わったであろう彼女の生き様も重ね合わせているのではないかと思う。

日本人としてのアイデンティティの表出なのだろう、能の要素や、邦楽の旋律を取り入れたナンバーも収録された『孤軍』ではあるが、私としては、むしろ「和」の要素で勝負をせず、本場アメリカの土俵で正々堂々と勝負をした、“正しくもビッグバンドな”ナンバーに惹かれている。

理由は、やはりドラムにある。

ピーター・ドナルドの躍動感あるドラミングが、めちゃくちゃ気持ち良いのだ。

まるで、計13人のホーンセクションを、後方から鞭で容赦なくビシバシと叩きまくり、鼓舞しているかのドラミングに、聞くたびにしびれてしまう。

特に1曲目の《エレジー》と2曲目の《メモリー》は、ドラム中心に鑑賞してみてほしい。

シンバルの乱舞に心躍ることでしょう。

そして、人によっては、エナジー・チャージを欲するときのマスト曲になるかも。

エナジー・チャージをしたければ、『孤軍』のドラムは、ガラナエキス配合のドリンクや、ゼリーよりも効くかもしれない。

それにしても、このアルバムのジャケット。

若かりし日の秋吉敏子は、女史というよりも、ウーマンというよりも、まだ、あどけない表情を残す女の子といっても良いではないですか。

このような可愛らしい女性が、単身アメリカに乗り込み、しかも全員外国人のミュージシャンを率いて、異文化であるジャズを、このような迫力あるサウンドで構築してしまっているのだから、ただただ凄い!と敬服するしかない。

記:2015/05/16

album data

孤軍 (SMJ)
- 秋吉敏子

1.Elegy
2.Memory
3.Kogun(孤軍)
4.American Ballad
5.Henpecked Old Man

穐吉敏子 (p)
Lew Tabackin (ts)
Bobby Shew (tp)
John Madrid (tp)
Don Rader (tp)
Mike Price (tp)
Richard Cooper (tp)
Charlie Loper (tb)
Jim Sawyer (tb)
Britt Woodman (tb)
Phil Teele (bass-tb)
Dick Spencer (as)
Gary Foster (as)
Tom Peterson (ts)
Bill Perkins (bs)
Gene Cherico (b)
Peter Donald (ds)
Scott Elsworth (voice)

1974/04/03-04

 - ジャズ