マイルス・イン・ベルリン/マイルス・デイヴィス

   

ショーター効果

ハンコック、トニーらを擁したマイルス・クインテットの熱血ライブ盤といえば、まずは『フォア・アンド・モア』が真っ先に思い浮かぶ。

しかし、『マイルス・イン・ベルリン』も負けてはいない。

『フォー・アンド・モア』との一番の違いは、なんといってもウェイン・ショーター参加の有無だろう。

テナーサックスが、ジョージ・コールマンからショーターに変わっただけで、こうも演奏のバランス、肌触り、立ち込めるムードが変わってくるとは。

パッと聴きの印象は『フォー・アンド・モア』と何ら変わるところはない。

しかし、聴き比べるにしたがい、徐々に『フォー・アンド・モア』とは違う空気を感じてくることだろう。

「進化した4ビートジャズ」には違いないが、だがしかし、この一言では括れないような、なんだか余剰で、不穏で、モヤっとした影が演奏に落とされている。

一言でいえば、ジョージ・コールマン参加の頃の演奏は、健康的で爽快&エネルギッシュ。

一方、ショーター参加後の演奏は、どんどんミステリアスで妖しいムードが立ちこめてくる。

同じようなレパートリー、同じような演奏スタイルにもかかわらず、コールマンからショーター加入までの間には、このクインテットのリズムセクションは加速的に進化かつ深化していたことが如実に伺える。

と同時に、ショーター参加がこれほどまでにマイルスのクインテットに大きな影響を及ぼそうとは、当の本人たちも気付いていなかったのではないか?

あるいはマイルスは最初からこのようなテイストの音楽を構築しようと頭に思い描きつつ、執拗にショーターにアプローチを続けていたのかもしれない。

爽快な気分で快演を楽しめる『フォー・アンド・モア』はもちろん素晴らしいライブ・アルバムだが、あくまで、“ジャズ・4ビート”という括りの中でのエキサイティングさだ。

しかし、爽快さの中にもじわりと黒い影を落とす『イン・ベルリン』は、“ジャズ・4ビート”という枠組みから何かが逸脱しはじめた“何か”を感じ取れる。特に、まったく別な曲に再構築された《枯葉》にそれが色濃く感じられる。

かのシャンソンの名曲が、ショーターの参加により急速にエントロピーが増大し、突如、崩壊(溶解?)へのカウントダウンが始まったかのようだ。

このムード、この音の色彩が、より一層濃厚さを増し、やがて『ソーサラー』の深いグレーの世界、『ネフェルティティ』の漆黒の世界へとつながってゆく。

こういった流れを知った上で再度聴き返すと、なかなかに興味のつきないライブ・アルバムなのだ。

スピード感の中に、ドロリと一抹の黒い影。

これが、このアルバムの魅力なのだ。

記:2007/04/05

album data

MILES IN BERLIN (Columbia)
- Miles Davis

1.Milestones
2.Autumu Leaves
3.High Notes
4.So What
5.Walkin'
6.Theme

Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)

1964/09/25

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