ミルト・ジャクソン・カルテット/ミルト・ジャクソン

      2021/02/12

ミルト的快楽

パーソネルを見ると、ピアノのホレス・シルヴァー以外は、モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)のメンバーだ。

つまり、ピアノがジョン・ルイスからホレス・シルヴァーに変わっただけのメンバー構成。

それだけでも、雰囲気がガラリと変わる。

当たり前だが、MJQのサウンドではない。

「ホレス・シルヴァー効果」によって、雰囲気が変わったというよりは、演奏における方向性・コンセプトの違いが、サウンドテイストをここまで変えたのだと解釈すべきだろう。

すなわち、グループによる緻密な構成美と、あくまで4人のアンサンブルを探求したMJQの演奏に対して、このアルバムの主役はミルト・ジャクソン。

「ワンホーン・カルテットのヴァイブ・バージョン」というのもヘンな言い方だが、ホレス・シルヴァー以下のリズム隊は、あくまでミルトの「歌」のサポート役に徹し、主役のミルトは、MJQほどの縛りの無い中、本来の持ち味を発揮させているのだと思う。

彼本来の持ち味とは、ブルージーでソウルフルな感覚だ。

「ミスター・ソウル」と呼ばれているほど、彼のグルーヴィーなフィーリングは極上のものだ。

決して音数は多くないものの、彼が叩き出すシンプルなフレーズの中の音と音の微妙な「間」と「タメ」は、とても心地が良いものだ。

そして、ヴァイブ特有の涼やかな音色。

このアルバムに限ったことではないのだが、私はミルト・ジャクソンのヴァイブを聴くたびに、脳の中がくすぐったくなるような快感を覚える。

とくに、速めのテンポよりも、ゆったり目のテンポの演奏のほうが、「間」の心地よさが強調されて、気持ちが良い気がする。

派手な演奏は無い。

ホレスのバッキングも、自己のグループとは違い、抑制を利かせたバッキングに徹している。

だから、より一層、ミルトのヴァイブが引き立つ。

ミルトのヴァイブは、押さえ気味のプレイで、リラックスしながら、淡々と演奏をしている感じだ。

しかし、この淡々とした演奏の中から、じわじわと滲み出てくる、どうしても拭うことの出来ない「黒っぽいフィーリング」こそが、「ミルト的快感」と言えよう。

コロコロと転がるような音。

余韻を引く心地よい金属音。

微妙に粘るフレーズ。

落ち着いた演奏が生み出す、深く深く沈んでゆくようなクールな感覚。
これら、「ミルト的快楽」を存分に味わえるアルバムだ。

抑制の効いた演奏ゆえか、このアルバム、かなりボリュームを上げても、まったく耳障りには感じない。

また、BGMがわりにボリュームを落としても、音の輪郭がしっかりと、こちらに伝わってくる。

手放せないアルバムの一枚だ。

記:2002/06/14

album data

MILT JACKSON QUARTET (Prestige)
- Milt Jackson

1.Wonder Why
2.My Funny Valentine
3.Moonray
4.The Nearness Of You
5.Stonewall
6.I Should Care

Milt Jackson (vib)
Horace Silver (p)
Percy Heath (b)
Connie Kay (ds)

1955/05/20

 - ジャズ