ミントン・ハウスのチャーリー・クリスチャン

   

圧倒的な音の存在感、抜きん出た表現力

たとえば、パーカーにしろ、パウエルにしろ、スタイルを築き上げた者の表現というのは、一言で言ってしまうと “強い”。

当然、その強さは、多くの聴衆の心を揺さぶるゆえ、彼らに憧れ、彼らのスタイルを模倣する後輩たちが続出するわけで、それが世に言われる「パーカー派」、「パウエル派」っていうやつなんだけれども、面白いことにパーカーを超えた「パーカー派」はいないし、パウエルを凌駕した「パウエル派」は一人としていない。

後に続く者のほうが、“後だしジャンケン”的に、先輩のスタイルの研究や洗練の余地がたっぷりあるはずなのに、いや、実際、彼らは研究・洗練はさせているのだけれども、最終的な“音の力”そのものには、先輩パーカー、パウエルには遠くおよばなかった、というのが正確なところだろう。

そいうえば、「チャーリー・クリスチャン派」のギタリストって聞いたことがない。

パッと思い浮かぶとしたら、バーニー・ケッセルぐらいか?

ウエス・モンゴメリーもクリスチャンも、デビュー前は、クリスチャンの耳コピーばっかりやっていたそうだから、「クリスチャン派」なのだろうけれども、そのように分類されているのは聞いたこともない。

もしかしたら、クリスチャン以降のすべてのギタリストは、多かれ少なかれ、なんらかの形で、クリスチャンの影響を受けているゆえ、あえて「クリスチャン派」という分類は必要ないのかもしれない。

そして面白いことに、「パウエル派」のピアニスト、「パーカー派」のサックス奏者と同様、後続のギタリストのスタイルや語法は洗練されているのかもしれないが、「音の強さ」においては、クリスチャンを超えるギタリストは皆無なんじゃないか、とすら思うのだ。

日夜繰り広げられていた、ミントンズでのジャムセッション。

この模様は、プライベートに録音されたていた。その音源が、『ミントン・ハウスのチャーリー・クリスチャン』だ。

邦題は『ミントン・ハウスのチャーリー・クリスチャン』で親しまれているこのアルバムだが、最近では『アフター・アワーズ』というタイトルで出ている盤もある。

レコーディングのストライキゆえ、当時のめまぐるしく変わり行くジャズシーンの状況をうかがい知ることが出来なかったことも手伝い、大袈裟に言えば、この録音は、ジャズの歴史のミッシングリンクでもある。

そのような予備知識を持ってしまうと、これを聴くたびに、なんだか、歴史の裏舞台をこっそりと覗き見しているような興奮に襲われるから面白い。

私家録音ゆえ、あまり上等とはいえない音質の演奏だが、そこからは、弾けるように、力強く、雄弁なチャーリー・クリスチャンのギターが、時代を超えて私の耳を直撃する。

圧倒的な音の存在感、抜きん出た表現力というのはこのことを言うのだ。

ジャズ史的にも、もちろん貴重な記録でもあるが、スタイルの新旧や奏法云々といったことなど考えるのがバカらしくなるほど、クリスチャンのギターの波動は太く力強い。

この骨太なギターの一音一音を聴けば、ハードロックのギターですら、腰の抜けた腑抜けた音に思えてくるから不思議だ。

クリスチャンに比べると、音の肝の据わり方が全然違うんだよね。

《スウィング・トゥ・バップ》、《ストンピン・アット・ザ・サヴォイ》。

まるで、目の前で鳴っているかのように、リアルで強靭なクリスチャンのギターは、時代を超えて聴く者を圧倒しつづけるのだ。

記:2006/04/11

album data

JAZZ IMMORTAL (Columbia)
- Charlie Christian

1.Swing To Bop
2.Stompin' At The Savoy
3.Up On Teddy's Hill
4.Stardust
5.Kerouac
6.Stardust
7.Guy's Got To Go
8.Lips Flips

Charlie Christian (g)
Joe Guy (tp)
Kenny Kersey (p)
?Thelonious Monk (p)?
Nick Fenton (b)
Kenny Clarke (ds)

1941/05月 at the Minton's Play House

動画解説

YouTubeにて、チャーリー・クリスチャンの素晴らしさと、ピアニストはモンクか否かのような話を語っています。

よろしければご覧ください。

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