ミヨシ/ナンシー梅木

   

ふっくら、ふんわり「銀しゃり」ヴォーカル

伝説の歌手、ナンシー梅木。

現在においては、彼女の知名度は低いのかもしれないが、彼女は、東洋人では始めてアカデミー賞助演女優賞を獲得した女優、歌手だ。

北海道に生まれ、1950年に歌手デビュ。55年に渡米。

57年には、第二次大戦中のアメリカ人パイロットと日本人女優の恋物語を描いた映画『サヨナラ』に出演し、アカデミー助演女優賞を受賞している。

本名の梅木美代志にちなんでつけられた『ミヨシ』は、彼女の代表作ともいえるスタンダード集だ(彼女は日本では、ナンシー梅木、渡米後はミヨシ・ウメキと名のっていた)。

兄が進駐軍にいた関係もあり、幼少時よりアメリカン・ポピュラー・ソングに興味をもっていたという経歴も手伝い、日本人離れした「ほんまもん」のテイストもきっちりと封じ込まれた歌唱だ。

このアルバム、歌手名とジャケットを伏せ、日本人が歌っているという先入観を抱かずに聴けば、おそらくポピュラー寄りの白人ジャズヴォーカリストが歌っているように聴こえるのではないかと思う。

ハル・ムーニー率いるオーケストラのアレンジも、主役が日本人だからといって無理してエキゾチックな東洋趣味を出した伴奏もしていないし、オーケストラのアレンジ、ダイナミクスの広さは当然ながら“現地もの”そのものだからだ。

ただ、随所に認められる、彼女の“ふわり”とした歌唱は、パサついたパンよりも、ふっくらと炊きあがった“米”を感じてしまう。 ……先入観ゆえそう感じてしまうのかもしれないが、それでも、白人女性特有の一種パサついたそっけなさをパンだとすると、ミヨシのヴォーカルは、やっぱり潤いと湿り気を帯びた“銀シャリ”を連想してしまうのはきっと私だけではないと思う。

そういった意味では、ナンシー梅木の『ミヨシ』は、アメリカンテイストの銀シャリ盤といえるかもしれない。

個人的には子供の頃に見ていた『ピンポンパン』のお姉さんの歌唱を思い出してしまう。ふわりと軽やかでのどかな感じ、というのかな?

だから、なんだか安心するんだよね。

本場モンの歌手のように、グワッ!と前に出てくる押しの強さはない。むしろ一歩引いた奥ゆかしさが感じられる。

このニュアンスと、ときおり炸裂するブラスセクションの音のインパクトの対比も、このアルバムの聴きどころだ。

ジャズヴォーカルの勉強をはじめたての人には、良い意味で「分かりやすい」歌唱なので、曲の原型を知り、なおかつジャズ的フレバーやニュアンスの込め方の参考になること請け合い。

また、1950年代にアメリカのショービジネスの世界で、キチンと認められていた日本人女性がいたという事実とともに永遠に記憶しておきたいアルバムでもある。

記:2009/11/12

album data

MIYOSHI (Mercury)
- ナンシー梅木 (Miyoshi Umeki)

1.My Heart Stood Still
2.My Ship
3.You Make Me Feel So Young
4.They Can't Take That Away From Me
5.Sometimes I'm Happy
6.I'm Old Fashioned
7.That Old Feeling
8.Gone With The Wind
9.Jeepers Creepers
10.Wonder Why
11.I Could Write A Book

Vo:ナンシー梅木 (ミヨシ梅木/梅木美代志 /Nancy Umeki/Miyoshi Umeki)
...他

1960年(発売)

 - ジャズ