マイ・ネーム・イズ・アルバート・アイラー/アルバート・アイラー

   

絞りだされるピュアな「歌」

リズム隊がステディな4ビートを刻めば刻むほど、アイラーの歪みっぷりがあらわになる。

アイラーを除けば、伴奏は、非常にオーソドックスなピアノトリオだ(ちなみに、ベーシストは当時15歳のニールス・ぺデルセン)。

だからこそ、かえってアイラーの特異さが浮き彫りになるのだ。

おそらく、伴奏に合っている、合っていないというのは瑣末な問題。

彼らリズムセクションの任務は、背後からアイラーの歌心にスイッチを入れ、それを受け入れる器を提供し続けることなのだ。

もっとも時間軸にしたがって低速・定型に作り出されてゆく器からハミ出したり、こぼれたりの連続なところがアイラーらしい。

まるで、秩序を壊し、あるいは秩序を無視するがために、背後のリズムセクションにはステディなビートを要求しているかのようだ。

テーマは辛うじて、原型を保っているものの、アドリブになると、もう最初からリズムに合わせることなど放棄したかのごとく、“あっち”の世界に独り飛び立ってしまうアイラー。

ぐじょぐじょに捻じ曲がったアイラーの「歌」が中空を彷徨う。

『マイ・ネーム・イズ・アルバート・アイラー』は、欧州へ兵役に就きそのまま滞在した、デンマークのコペンハーゲンで録音された彼の初リーダー作だ。

まずは、アイラーの自己紹介からはじまる。

予想外にマトモ(?)な話し方、かつ穏やかな口調と甘いトーンの声からは、あのサックスの咆哮とはなかなか結びつかないが、やがて始まる演奏から、すぐにアイラーの世界にドップリと浸ることが出来る。

このアルバムでは、ソプラノとテナーサックスを吹き分けているアイラーだが、どちらのサックスの音色も、アイラーが吹くと、まるで泣いているかのよう。

身体の中身を絞り出すような高音が中空に放たれる。

一音一音がまさに咽び泣いている。

沸き起こる、内なる感情のほとばしり。これに一切のオブラートをかけずに、そのまま単刀直入に、思うがままに、ストレートに咆哮するアイラーのサックスは、音の凶暴さとは裏腹に、なぜかとても哀しい。

もし、この音にリアルさを感じる人がいれば、それはカタチにならない人間の感情が、音というカタチとなって表出されていることに気付いているのだと思う。

哀しく、リアルなアイラーの咆哮は、時空を超えて、今でも聴くものの心の内側を揺さぶる。

《サマータイム》の名唄、名演、数あれど、これほど哀しい《サマータイム》は他にあるだろうか?

意味や理屈をすり抜けて、こちらの情感に直接訴えかけてくるアイラーの哀しみ。

彼は、サマータイムに何を想い、何を籠めたのか?

記:2006/06/01

album data

MY NAME IS ALBERT AYLER (debut)
- Albert Ayler

1.Introduction by Albert Ayler
2.Bye Bye Blackbird
3.Billie's Bounce
4.Summertime
5.On Green Dolphin Street
6.C.T.

Albert Ayler (ts,ss)
Niels Brφonsted (p)
Niels-Henning φrsted Pedersen (b)
Ronnie Gardiner (ds)

1963/01/14

 - ジャズ