ポートレイト・オブ・キャノンボール/キャノンボール・アダレイ
《ナルディス》一発!
《ナルディス》一発で聴くアルバムだ。
他の演奏は、大したことない。というか地味。印象にほとんど残らない。良くも悪くも典型的なジャムセッションタイプのハード・バップ。
ピアノはビル・エヴァンスだし、ドラムはフィリー・ジョー。
贅沢なメンバーといえば、メンバーだが、なんだかアルバム全体に覇気が漲ってないんだよね。
録音のバランスのせいかもしれないが、リズムセクションの引っ込みっぷりは、実際に行われた演奏よりも、さらに下方修正された印象しかリスナーに与えていないのではないかと思う。
ときおり、ブルー・ミッチェルが「お、この歌い方いいねぇ」というフレーズを吹くには吹く。しかし、それ以外は、正直言って地味で、「おや?!」っと引っかかるほど特筆すべき点はなく、ラストの《ナルディス》まで、可もなく不可もなく続くといった感じだ。
とくに、輸入盤CDだと《マイノリティ》のテイク違いが3曲連続で続くので、曲順をセットするのが面倒な私としては、ちょっとカンベンしてくれ、って感じだ。
だから、ラストの妖しい《ナルディス》の登場を待つしかない。
《ナルディス》というと、ビル・エヴァンスのイメージの強い曲かもしれないが、じつは、この曲、マイルスがキャノンボールのために作った曲なのだ。
当の本人よりもビル・エヴァンスのほうがこの曲を気に入ったようで、何度も演奏している上に、『お城のエヴァンス』という決定打もあるから、エヴァンスのイメージのほうが強いのかもしれない。
『お城のエヴァンス』の《ナルディス》は速めのテンポ設定ゆえ、アグレッシヴなカッコ良さが目立ったが、キャノンボール版のほうは妖しさのほうが際立っている。
ビル・エヴァンスのシャープな演奏に慣れた耳には、非常に妖しく魔術的に響くこの演奏の秘密は、テンポ設定にある。
さらに、2管によるアンサンブルが、よりいっそう旋律を妖しく彩っていることも大きい。
「ホントに同じ曲?」というぐらい、違う響きに聞こえる驚きは、エリック・ドルフィー&ブッカー・リトルによる『アット・ザ・ファイブ・スポットvol.1』の《ファイヤー・ワルツ》に聴きなれた頃に、マル・ウォルドロンの『クエスト』のバージョンを聴いたときの驚きに近い。
とはいえ、妖しく感じるのはテーマの部分だけ。
ブルー・ミッチェルやエヴァンスのソロは、かなりムーディ。
グラスを傾けるには良い雰囲気の演奏ではある。
キャノンボールが好きでたまらないという人以外には、無理してオススメはしないアルバムだ。
もっと素晴らしい演奏をしているキャノンボールは他のアルバムでいくらでも聴ける。
記:2006/04/01
album data
PORTRAIT OF CANNONBALL (Riverside)
- Cannonball Adderley
1.Minority (originally issued)
2.Minority (take 2)
3.Minority (take 3)
4.Straight Life
5.Blue Funk
6.A Little Taste
7.People Will Say We're In Love
8.Nardis (take 5)
9.Nardis (take 4)
Cannonball Adderley (as)
Blue Mitchell (tp)
Bill Evans (p)
Sam Jones (b)
Philly Joe Jones (ds)
1958/07/01