サムシン・エルス/キャノンボール・アダレイ(マイルス・デイヴィス)
3曲目にも注目!
いまさら説明不要の大名盤だ。
このアルバムの目玉曲《枯葉》。
マイルスの咽び泣くミュートトランペット、闊達でのびやかなキャノンボールのアルトサックス。
全体的にピリリとしまった雰囲気。
もう何もいうことないほど、完璧にひとつの「世界」が構築されている。
もちろん、小憎らしいほどマイルスの演出が効いた《枯葉》も良いが、2曲目、3曲目にも注目しよう。
まさにこのアルバムは人選の妙だ。
《枯葉》で咽び泣くマイルス・デイヴィスのミュートばかりが注目されている本盤だが、そして、それはそれで正しい注目には違いないのだが、この咽び泣きを最大に引き立てるための最高のお膳立てが施されていることにもっと注目をしたい。
まずは、なんといってもハンク・ジョーンズの繊細な心配りの効いたピアノにもっと注目してもし過ぎることはない。
控えめなバッキング、演奏の良いメリハリ&アクセントとなるソロも素晴らしい。
神妙なブレイキーのブラシに、余分な音は一切弾かないサム・ジョーンズのベース。
このリズムセクションがなければ、マイルス効果も半減していたことだろう。
さらには、言い方悪いが「野蛮人」キャノンボールとの対比効果。
マイルスは、よく、野蛮で無骨な大男(サックス)と、それを飼い慣らす知的でストイックな自分という、自分にオイシイ役割分担と対立構図を音で演出するのが得意なジャズマンだが、ここでも吹きまくりな食欲旺盛野蛮人(=キャノンボール)と、知的でデリケートな自分という構図を見事に描き出し、相手の饒舌さを引き立てると同時に、自分のストイックさも倍増させる結果に導いている。
キャノンボール・アダレイのリーダー作でありながら、このようなマイルス流の「演出」が効いているのは、実質的なリーダーはマイルスだったから。
実際、このレコーディングの記録には、ブルーノートの社長、アルフレッド・ライオンによる直筆で「リーダー:マイルス・デイヴィス」という記録が残されているという。
なるほど、だからこそ、大手レーベルに移籍をし、『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』などでで認められる、マイルス流の演出を《枯葉》に効かせることが出来たわけだ。
とはいえ、1曲目の《枯葉》ばかりに注目をせずに、2曲目や3曲目にも、もっと注目して欲しいと思っている。
このアルバムの「セールスポイント」は《枯葉》には違いないが、このアルバムならではの「カナメ」は3曲目にあり、と私は考えている。
ストイックな火花を散らす《サムシン・エルス》で知的な興奮を味わおう。
緊迫感あふれるハンク・ジョーンズのピアノソロにも注目。
ビル・エヴァンスが得意とするブロックコードのアプローチながらも、エヴァンスとは別種の知的かつ緊張感あふれる雰囲気を湛えたソロが素晴らしい。
ハンクのピアノ
ハンク・ジョーンズのピアノといえば、《ラヴ・フォー・セール》のイントロのピアノにも注目!
「売春ソング」をここまで格調高いムードに昇華出来たのは、1にも2にもハンク・ジョーンズのイントロがあるからこそ、なのだ。
おそらく多くの方はこのアルバムの注目するジャズマンは、マイルス→アダレイという順番になるのだろうが、この2人に飽きたときこそ、リズムセクションにも注目して欲しい。 控え目ながらも多彩なアプローチを重ねるハンク・ジョーンズのピアノ。
そして、じわりと黒く鈍い光沢を放つ“いぶし銀”、サム・ジョーンズのベース。
出るところと引くところのダイナミクスの差が著しいアート・ブレイキーのドラミング。
レッド・ガーランドでもビル・エヴァンスでもない、もう一つの「歌ものマイルス」のコンボの理想形が、ピアニスト、ハンク・ジョーンズを中心とするこのリズム隊なのではないかと私は考えている。
名盤中の名盤ゆえ、聴きまくり、聴き飽きているジャズファンも少なくないかもしれない。
しかし、「このアルバムは耳タコだよ」と言うのはまだまだ早い。
まだまだ聴きどころは無数に散りばめられている。
記:2009/02/20
album data
SOMETHIN' ELSE (Blue Note)
- Cannonball Adderley
1.Autumn Leaves
2.Love For Sale
3.Somethin' Else
4.One For Daddy-O
5.Dancing In The Dark
6.Allison's Uncle
Cannonball Adderley (as)
Miles Davis (tp)
Hank Jones (p)
Sam Jones (b)
Art Blakey (ds)
1958/03/09