スパイ vs スパイ/ジョン・ゾーン

   

アプローチは非オーネットだが漂うムードは正真正銘オーネット

これほど、オーネットから遠くに位置しているくせに、「オーネット的」な、オーネット・コールマンのカヴァー集は、他に無いんじゃないだろうか?

アルト・サックスとドラムをそれぞれ2人ずつ配するという特異な編成(ベースは一人)。

疾走、いや、暴走するリズム。

そして、ハード・コア的で暴力的なアプローチ。おそらく、デスメタルと呼ばれているジャンルよりも凶悪な音なんじゃないでしょうか(笑)。

はっきり言って、すごく騒々しい演奏なので、保守的なジャズファンは耳を塞ぐかもしれない。

しかし、この圧倒的な音の洪水に身をひたすと、すごい快感が待っている。

とにかく、極限までに加速されたスピード感がたまらない。

騒々しくて、気持ちの良いサウンドだと感じるのは、この速度に追いつこうと、無意識に脳が無限大の脳内麻薬物質を大量放出するからなのだろうか。

すべての曲が短めなのも良い。

短時間での完全燃焼というところも、そこはかとなくハード・コア。

というよりも、体力が続かないのだろうな。

しかし、不思議なことに、曲を破壊すればするほど、オーネットが作った曲の輪郭が恐ろしいほどにハッキリと浮かび上がってくるという逆説的効果が興味深い。

オーネット・コールマンは、サックス奏者だが、面白い曲を書くワン・アンド・オンリーな作曲者でもある。

事実、彼がデビューするきっかけを作ったコンテンポラリー・レーベルのオーナーは、彼をサックス奏者としてではなく、作曲者として売りだそうとしていたほどなのだから。

彼の曲の特徴は、「メロディの一筆書き」的なところ。起承転結といった、厳密な構造や展開はあまり無いかわりに、あてどもなく移ろいゆく「気分」を、うまくキャッチして、曲に落としこんだという感じがする。練り込まれているというよりは、どんどん中空に拡散してゆくような感じ。時に、幼児が口ずさむような単純素朴な旋律すら見受けられる。

したがって、オーネットの音楽を、オーネットのテイストを残した状態で再現するには、楽器の編成やフレーズ云々といった物理的なことよりも、 彼特有の「気分」をいかに捉えるか、再現出来るのかにかかっているのだと思う。

ジョン・ゾーンはそこのところを心得ていたに違いない。

手法や編成を越えて、こんなにバイオレンスな音の洪水の中にも、剥き出しのオーネット臭さがキチンと確保されているのだ。

記:2002/03/05

album data

SPY vs. SPY (Elektra/Musician)
- John Zorn

1.WRU
2.Chronology
3.Word for Bird
4.Good Days
5.The Diguise
6.Enfant
7.Rejoicing
8.Blues Connotation
9.C & D
10.Chippie
11.Peace Warriors
12.Ecars
13.Feet Music
14.Broadway Blues
15.Space Church
16.Zig Zag
17.Mob Job

John Zorn (as)
Tim Berne (as)
Mark Dresser (b)
Joey Baron (ds)
Michel Vatcher (ds)

1988/08/18-19

 - ジャズ