ジス・イズ・クリス/ソニー・クリス

   

ジャズっぽいジャケットではないかもしれないが……

アルト吹きのソニーといえば、スティットではなく、私の場合は、断然クリス。

そう、私は、ソニー・スティットはあまり好きではないが、ソニー・クリスは大好きなのだ。

二人ともパーカー直系のアルト奏者(スティットはテナーも吹くが)。

プレイのスタイルどころか、音色もそっくり。おまけに、パーカーを軽やかにした音色とノリゆえ、最初は区別がつきにくいかもしれない。

しかし、よく聴くと、スティットよりも、クリスのほうが若干だがクリーミーでマイルドな味わいがある(チョコレートみたいですね)。

アクセントのつけ方もスティットは鋭角的で、ちょっとやり過ぎなんじゃないの?というぐらいのメリハリをつけるが、クリスは控えめ。

控えめながらも情感をたっぷりとたたえており、そこがたまらないのだ。

反対にスティットのプレイは、どこか「オレがオレが」という自我の強さが匂い立つ。

もちろん、ジャズは個性の音楽だから、「オレがオレが」は悪いことではない。しかし、どこか突き抜けきれていない「オレがオレが」っぷりは、あまり心地よいものではない。

もっとも、文章にすると大袈裟な違いに感じられるかもしれないが、実際の音は、かなり微妙な差だ。

そう、微妙な違いなのだが、この違いが重要で、聴き手の好みを左右する。

事実、スティットはリーダー作を何枚も買って聴いたにもかかわらず、「これだ!」という盤には出会っていないし、したがって愛聴盤も無い。

『スティット・パウエル・JJ』は例外的に好きだけれども、このアルバムは前半はパウエル、後半はJJを聴くアルバムだと思っている。

だから、私の中ではスティットは彼らのサイドマンでしかない。

さて、クリス。

軽やか、マイルド、クリーミーな(コーヒーに入れる乳粉末みたいですね)クリスといえば、これなんかイイんじゃない?

なんだか、ふた昔ぐらい前の、B級ヒップホップや、名も知れぬブラコン(ブラック・コンテンポラリー・ミュージック)のレコードみたいなジャケットだけれども、内容はお墨付き!

いきなり、気だるく始まる《ブラック・コーヒー》も良いし、小回りの効いた軽快な《酒と薔薇の日々》もいい感じ。

少しずつエンジンの回転数のあがってくる《ホエン・サニー・ゲッツ・ブルー》も捨てがたいですねぇ。この音で、こういう語り口で吹かれると、かえって泣けてくるじゃないですか。

この前半の3曲でつかみは充分!

もちろん、ヒートアップした《ラヴ・フォー・セール》も素晴らしいし、しみじみと呟く《スカイラーク》も良い気分。

いずれにしても、「やり過ぎ・トゥー・マッチ」な表現をしないところがクリスの良いところ。おまけに、明朗快活で、曇りと迷いの無いプレイにも好感が持てる。

ベースがポール・チェンバース、ドラムスにアラン・ドーソンという安定したリズムセクションを配しているところも安心して聴ける所以。

「よーし!ジャズを聴くぞ!」と肩肘張らずに、気軽にジャズを聞きたいとき。

しかし、単にBGMで終わらすのも勿体ないと思うとき。

過不足なく楽しませてくれる腹八分目のジャズを楽しみたい。

そんなときは、ソニー・クリスの名前を選択肢のひとつとして、頭の片隅にとどめておくとよい。

記:2006/03/01

album data

THIS IS CRISS (Prestige)
- Sonny Criss

1.Black Coffee
2.Days Of Wine And Roses
3.When Sunny Gets Blue
4.Greasy
5.Sunrise,Sunset
6.Steve's Blues
7.SkyLark
8.Love For Sale

Sonny Criss (as)
Walter Davis (p)
Paul Chambers (b)
Bill Ellington (b)
Alan Dawson (ds)

1966/10/21

 - ジャズ