アンダー・グラウンド/セロニアス・モンク

   

《セロニアス》が面白い

ベースが妙に張り切っていて、ドラムは淡々とマイペースで、で、肝心のモンクは、テーマからアドリブに突入するあたりまでは、あんまり乗り気じゃなさそうな、いまいち気合いの入らない淡々としたピアノ。

この最初は、なんだかバラバラというか、演奏の重心が定まらないままのスタートゆえ、なんとなく無愛想な印象すら与える《セロニアス》だが、いつの間にか、演奏の温度がグングンと高まってゆく様が面白い。

火をつけたのは、モンクだ。
いや、モンクが勝手に一人で盛り上がってきている。

これに合わせて、ベース、ドラムも少しずつモンクにつられて躍動感を増し、最後はノリのよいピアノトリオの演奏に。

ストライド奏法をおっぱじめるあたりが、ノリの絶頂か。

最初は、「なんて気合のはいってない演奏なんだろう」

そして、最後は、「無愛想な曲をよくぞここまで盛り上げて」ボルテージの幅が面白い《セロニアス》から始まる、自由フランス兵にコスプレしたモンクのジャケットも秀逸な『アンダー・グラウンド』は、後期のモンクのアルバムの中ではベスト3に入るほど、楽しく聴きごたえのあるアルバムだ。

オマケ(?)に入っているジョン・ヘンドリックスがヴォーカルの《イン・ウォークト・バド》もあったりと、なかなかバラエティに富んだ内容なのだ。

しかし、もっともこのアルバムの「ヘソ」は何なのか?

爆裂《レイズ・フォー》

それは、チャーリー・ラウズが抜けたピアノ・トリオの《レイズ・フォー》こそが、このアルバムの隠し玉。……いや、爆弾か(笑)。

コード進行は通常の「B♭」のブルースだが、それにのっかるメロディがなんとも……。
これでもかと執拗に繰り返されるテーマの5音のメロディ。

この強引さには、笑うしかない。

しかも5音で構成されたメロディが、これまたモンクらしい生真面目なユーモアに満ちており、これをモチーフに強引に押し切ってしまうところが、飄々としたモンクの音楽の真骨頂。

モンク理解のキーワードは、私は常々「なんじゃこりゃ!」な驚きにあると思っている。

ファースト・インプレッションの「なんじゃこりゃ」が、やがて「深い納得」につながるモンクス・マジック。

これを楽しめるか楽しめないかが、モンク理解の試金石ともいえる。

《ブリリアント・コーナーズ》の奇怪な曲構造とアンサンブルが「なんじゃこりゃミュージック」だとすると、《レイズ・フォー》は、モンク流「なんじゃこりゃブルース」の代表なのだ。

モンク・ファンにとっても目立たず埋もれたブルースなのかもしれないが、《ブルー・モンク》、《ストレート・ノー・チェイサー》、《ファンクショナル》、《ミステリオーソ》だけがモンクのブルースじゃないぞぉ! 《レイズ・フォー》こそ、もっともモンク臭漂うブルースなんだぞぉ! と、ここで声高に主張しておく(笑)。

記:2008/12/12

album data

UNDERGROUND (Columbia)
- Thelonious Monk

1.Thelonious
2.Ugly Beauty
3.Raise Four
4.Boo Boo's Birthday
5.Easy Street
6.Green Chimneys
7In Walked Bud

Thelonious Monk (p)
Charlie Rouse (ts)
Larry Gales (b)
Ben Riley (ds)
John Hendricks (vo) #7

1967/12/14 #2
1967/12/21 #4
1968/02/14 #1,3,5,7
1968/12/14 #6

 - ジャズ