ウェイ・アウト・ウェスト/ソニー・ロリンズ

   

ほのぼのリラックス、和む!

個人的なことで恐縮だが、聴くたびに「温泉」を思い出してしまうアルバムだ。

学生の頃、夏休みに数人の友人と山梨県の温泉に行った。
道中、退屈しないように、私はラジカセを持参した。

電車の中で、お客さんが少なくなったときを見計らって、また、検札に来る車掌さんの目を盗んで、ラジカセを再生し、流れる景色と、流れるジャズを楽しんでいた我々。

その時のカセットに録音されていたアルバムは、『エリック・ドルフィー・アット・ザ・ファイブ・スポット・vol.1』(笑)。

夕暮れどきの、山と田んぼばかりが続く退屈な景色も、《ザ・プロフェット》を聴きながら眺めていると、とても不思議な気分にひたれた。

そして、このカセットのB面に録音したのが、ロリンズの『ウェイ・アウト・ウェスト』。

これは、車中で聴くよりも、湯上がりに、旅館の畳の上でお茶を飲みながら聴いた時が最高だった。

特に、レコードでいえばB面にあたる後半のほうが良かった。

《ワゴン・ホイール》のほのぼのとしたメロディと、ちょっとトボけた味を出すロリンズのテナーは、湯上がりには丁度良いマッサージとなる。

「ほにゃー」と、心も身体も惚けた状態で聴くと、本当に気持ちが良い。

それに加えて、ピアノレス・トリオによるスカスカなサウンド。

楽器と楽器の音の風通しがとても心地よいのだ。

このスカスカ感は、ピアノレス・トリオというフォーマットというよりも、録音のバランスの賜物なのかもしれない。

同じくロリンズの、ヴィレッジ・ヴァンガードのライブ盤(ブルーノート)は、同じピアノレスというフォーマットでありながら、音の密度が凝縮されていて、かなりパワフルでエキサイティングなサウンドだ。

スカスカなサウンドとは言いがたい。

ピアノレス・トリオだから、即、スカスカなサウンドだというわけでもないのだ。

個人的には、『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』のほうが好みのアルバムだが、こと、温泉に入ったあとに聴くアルバムを選ぶとなれば(?)、断然『ウエイ・アウト・ウェスト』だ。

あっけらかんさ、ほのぼのさ、適度な脱力加減、大らかさ、そして、時おり繰り出されるハッとするフレーズ……。

この温泉旅行以来、たとえば風呂上りにビールを飲みながら、リラックスした気分で、なんにも考えずに「え~な~」と聴くには最適なアルバムとなった。

風通しの良いピアノレス・トリオ

この『ウェイ・アウト・ウェスト』は、ロリンズ初のピアノレス・トリオ作品だ。

ロリンズは、56年にプレスティッジ(『サキソフォン・コロッサス』のレーベルですね)との契約を終え、翌57年からは、どことも契約を結ばず、複数のレーベルに録音をするようになった。

彼がマックス・ローチ・クインテットで西海岸に赴いた際、レイ・ブラウンとシェリー・マンを加えて録音したのが本作だ。

レーベルは、コンテンポラリー。

楽器本来の音をナチュラルに再現したサウンドが、このレーベルの大きな特徴だ。

ブルーノートの、ハードでゴリゴリした中域を強調した音とは、対極のサウンドカラーが特徴のレーベルなので、先ほど楽器同士の隙間が気持ち良いと書いたが、この「風通しの良さ」は、コンテンポラリー・レーベルの録音ならではの効果なのだろう。

西海岸の名手、レイ・ブラウンに、シェリー・マンという実力派をリズム・セクションに配しているだけあって、リズムの良さは抜群。

安定したリズムに乗って、朗々とサックスで歌うロリンズは、いかにも楽しげだ。

曲によっては、カウベルをコッコチッキ、コッコチッキ、コッコチッキと奏でるシェリー・マンも面白い効果を出している。

古い西部劇映画の曲や、エリントンの曲、そしてロリンズのオリジナルなどが演奏されているが、どれもが、大らかでリラックスした雰囲気の演奏だ。

タイトル曲のラストで聴ける、ロリンズのわざと大袈裟にビブラートをかけ、ちょっと拉げたように「ほにゃほにゃへろへろ」したテナーのサウンドにはいつも笑ってしまうし、《ワゴン・ホイール》で聴ける、まるでアクビをしているような「ほぁ~」という音色も面白い。

この『ウェイ・アウト・ウェスト』は、曲、風通しの良いサウンドはもちろんのこと、ロリンズのテナーの音色の変化も楽しめるアルバムなのだ。

記:2002/04/01

album data

WAY OUT WEST (Contemporary)
- Sonny Rollins

1.I'm An Old Cowhand
2.I'm An Old Cowhand (alternate take)
3.Solitude
4.Come, Gone
5.Come, Gone (alternate take)
6.Wagon Wheels
7.There Is No Greater Love
8.Way Out Wset
9.Way Out Wset (alternate take)

Sonny Rollins (ts)
Ray Brown (b)
Shelly Manne (ds)

1957/03/07

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