イエスタデイ&トゥデイ/ホリー・コール

   

あっさり「原曲超え」をしてしまう歌手

カナダ出身の女性歌手、ホリー・コール。

彼女の魅力は、既存の曲をあたかも彼女のオリジナルのように料理してしまうことだ。

有名なのは、彼女の名を世界に知らしめた名カバー《コーリング・ユー》だろう。

もちろん、映画『バクダッド・カフェ』の挿入歌も良かったが、ホリー・コールがカバーしたことによって、単なる映画挿入歌が、普遍的な名曲へと昇華してしまった。

他にも、エルヴィス・コステロの《アリソン》もホリーが情感たっぷりに歌ったことによって、格調高さが増した。

もちろんコステロ本人の原曲も良いのだが、彼女のバージョンを聞いた後のコステロ・バージョンは、いかにも俗っぽく、少し雑な感じに聞こえてしまう。

ペトラ・クラークのヒット曲《ダウン・タウン》も域なアレンジのためか、サビの歌唱の盛り上げの見事さのせいか、これも素晴らしい仕上がり。

これも、ホリー・コールのバージョンの後に原曲を聞くと、単なる古い流行歌、というよりも、知性の足りないキャンディー・ショッパーなポップスに聴こえてしまうのは気のせい?

ビル・エヴァンスのデリケートな演奏で有名な《マイ・フーリッシュ・ハート》も内省的で地に足のついたしっかりとした歌唱と演奏で聴きごたえのある作品にリメイクされている。

このように、思いついた範囲で、軽く「原曲超え」をしてしまった曲を挙げてみたが、これらの曲はすべて、彼女のベスト盤とでも言うべき『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』に収録されている。

3枚のアルバムからベストトラックを選び、さらにこのアルバムのための新録音の4曲を加え、リミックス曲も1曲加えたという、日本企画のアルバム『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』。 彼女を知るには、このアルバムがもってこいだ。

私が思うに、彼女の“原曲超え”の秘密は、あたかもストーリーを連想させるかのごとくな歌唱にあるのではないのかと思う。 なんだか、とてもドラマティックなのだ。

いや、本人はそこまで意識していないのかもしれないが、声と情感の込め方からは、否が応でも聴き手は映画のシーンや、過去の記憶のいちシーンを想起させてしまう何かが宿っているのだ。

彼女の歌に触れるだけで、リアルに世界がビジュアライズされる。

だから、既存の曲は、彼女なりのオリジナルストーリーが展開されるし、たとえば、《ネオン・ライト》のようなオリジナル曲だって、あたかも目の前にネオンのブルーな光彩が瞬くような光景が浮かんでくるのだ。

加えて、いわゆる「ガチガチなジャズファン」以外の、むしろポップス好きなリスナーからも絶大な支持を受けている理由は、アクの少ないストレートな声と、伸びやかな唄法、そして健康的でちょっとだけブルーなフィーリングをたたえているところなのだろう。

とにもかくにも、彼女の『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』は、最初の1枚にはもってこいな内容。ジャケット兼ブックレットのビジュアルのセンスも良い。

最近は、あまり店頭では見かけなくなっているが、中古屋などで見つけたら、要チェックだ。

記:2004/06/10

album data

YESTERDAY & TODAY (Capital/東芝EMI)
- Holly Cole

1.Alison
2.Neon Blue
3.Calling You
4.Don't Let The Teardrops Rust Your Shining Heart
5.Cry(If You Want To)
6.My Foolish Heart
7.Got Will
8.Downtown
9.I Can See Clearly Now
10.Girl Talk
11.Trust Me
12.Blame It On Youth

Holly Cole Trio:
Holly Cole (vo)
Aaron Davis (p)
Davit Plitch (b)

David Lindley (lap steel guitar on 4)
strings (on 3,4,11,12)
#1,2,3,11
recorded at Reaction Studios and McClear Place Studios Toronto,Canada Oct.1993

#4,9,12 from the Album "Don't Smoke In Bed"

#6,8,10
from the Album "Girl Talk"

#7
from the Album "Blame It On My Youth"

All Strings Arrangements by Aaron Davis
Except 9 arrangements by Holly Cole Trio

 - ジャズ